ピノキオピー「しぼう」(2014) レビュー
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ピノキオピーさんのアルバムは去年の大晦日にも「2013年で一番良かったアルバム」として自主制作4thアルバム「遊星まっしらけ」を紹介させていただきました。(リンクはこちら)
今回のこのアルバムは今月3日にリリースされたばかりですが、やはり「2014年で一番良かったアルバム」として今年最後のこの日に紹介させていただきます。
と言っても今年発売されたアルバムはそれほど数を聴いていないので、「暫定的に」という言葉を念のために付加しておきたいと思いますね。
それでは以下全曲レビュー&総評です。
[全曲レビュー]
1. しぼう ★★★★
ゆったりとした流れのある優しい水底に沈んだような前半から、突如として狂ったようにギター、ドラム、果てにはボーカルが暴れだす。メルヘンチックな世界観に没入させて、ハッと現実を突きつけるようなピノキオピーらしいオープニング。今作のテーマを決定づける印象的な一曲です。うおうおうお
2. はじめまして地球人さん ★★★★☆
アップテンポでポップな一曲。来年発売される3DSゲームソフト『初音ミク Project mirai でらっくす』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲です。ピノキオピーさんはよくアルバム書き下ろし曲にこのような爽やかで明るい曲を入れたりするのですが(1stメジャーの「ジゼミ・イン・ザ・アンダーグラウンド」然り、自主制作2ndの「ファンタジーへようこそ」然り、自主制作3rdの「とうめい」然り)、今作は珍しくシングルカットされるようです(ゲーム発売に合わせてなので来年初頭になるでしょう)。「明るく爽やか」といってもやはり歌詞はピノキオピー氏の真骨頂。人間を客観的に捉え、ハッとするフレーズが随所に埋め込まれています。それでもなお愛そうとするその姿勢は、やはり尊敬してやまない。
3. よいこのくすり ★★★★☆
ポップでキャッチーながらも哀愁を感じる一曲。この諦観漂う感じは氏の3rdアルバム「遊星まっしらけ」の表題曲を彷彿とさせますね。サビの叙情的な歌詞にホロリとさせられるのは勿論のこと、A~Cメロの歌詞表現に唸らされます。
4. 絵の上手かった友達 ★★★★
シンセのリフが素敵な、氏には珍しいストレートなラブソング。ストレートと言っても、歌詞の言葉選びがストレートというだけで内容は「男の子をフッた女の子側の視点」という捻くれ具合。3rdのM6「アッカンベーダ」でもそうですが、何故男性のあなたが年頃の女の子の心的表情をここまでリアル且つダイナミックに表現できるのか・・。名曲です。
5. すろぉもぉしょん ★★★★★
今作のベストナンバー。ミクやゆっくりのような電子音声によく合ったデジタルなサウンドながら、昭和歌謡的で懐かしさを感じさせるメロディーとお祭り騒ぎなノリの良さで、一発で心を鷲掴みにされました。何より抜きん出て良いのは歌詞ですね。なんというか、今までのピノキオピー氏の歌詞は、自身の経験を元にした主観的なものが少ない印象があったんですよね。どれも他の既製物や人の行動を傍から眺めて、そっから感じ取ったことを描いているという印象がありました(いわば天界から人間界を見下ろして曲を作っている感じですね)。と言ってもそれは決して悪いことではなく、それ故にぼくは彼の鋭い観察眼に強く惹かれたのですが。しかし今作「すろぉもぉしょん」で、彼は地に足を下ろしました。そんな彼の人間臭さが全面に出ていると感じます。そして足を下ろしただけでなく、それまで観察してきたものを全て肯定し、許してしまいました。「そんなもんだ」と。ついにここまで来てしまったのか。一体こっからどこへ向かうつもりなんだあなたは!・・・とだんだん熱くなってきたところでどれだけこの曲が自分の心を動かしたのかはもうお分かりになられたと思うので、この辺にしておきます。
6. Last Continue ★★★★☆
エレクトロ成分マシマシの一曲。原曲は2009年3月頃に発表された氏の自作曲「Continue」。2010年2月頃に発表され2ndアルバムにも収録された「Re:Continue」を含め2度目のリメイクが本作となります。エレクトロ成分が増え、大幅にアレンジが加えられた本作・・・簡潔にいうと、アレンジでここまで詞の印象が変わるのか!と改めて驚かされました。正直、原曲と一度目のリメイクまでは氏の楽曲の中ではあまり目立たない印象を持っていたんです。割と明るめの雰囲気で「あの日に戻れたらいいのにな」というストレートに後ろ向きな歌詞、加えてサビのメロと歌声が単調だったので、チープな印象を持ってしまっていました(ギターソロはとても好き)。しかし今作は一転して低音のシンセベースが畝ねるシリアスな雰囲気。曲もメロも展開に幅があり飽きさせない。何よりボーカルの調整と歌詞のマッチ具合が素晴らしい。そして改めて「Re:Continue」を聴くと、また印象が変わってくるのがわかります。見事に生まれ変わり、曲として完成した一曲だと思います。
7. たりないかぼちゃ ★★★★☆
ファミマ×VOCALOIDのハロウィン企画で制作された一曲。ブラスを多用したビッグバンド風×ピコピコ音楽といった面白い構成。曲調もお祭り騒ぎで楽しいです。その一方歌詞の方はというと・・・ああなるほど、「たりない」はそっちの「たりない」なんですね。相変わらず捻くれていて素晴らしいです。ピノキオピー氏のこういう歌詞は「皮肉」と捉える人も多いですが、ぼくとしては皮肉でもなんでもなく、氏の「本心」なのではないかなあと思ったりしますが、どうなんでしょうか。全てを理解した上であえてそっちへ行きたいなんて、とても素敵じゃありませんかね。それはまあ置いといて、こっちの意味での「たりない」は最近だと阿部共実先生の漫画「ちーちゃんはちょっと足りない」が印象的で耳に残っていますが、その辺りからヒントを得たのでしょうか。そちらも個人的には気になるところです。
8. ヒーローが来ない ★★★★☆
アルバム書き下ろし曲。こちらもM2と同じく「明るく爽やか」な曲調。題材はヒーローものなのにひたすら退廃的な現実を突きつけて辛い曲です。こんなに思いつめているのにヒーローは来ない・・・どうして・・・。曲の展開がとても好き。
9. ニナ ★★★★★
こちらで紹介済み。リマスタリングされていて音がより一層キラキラと輝いて聴こえます。M8→M9→M10の流れが素晴らしい。
10. ラブ イズ オノマトペ ★★★★★
ドンドコドコドコな一曲。サウンドはエレクトロハウスを土台にした感じのダンス系ミュージックですが、ダンスというより音頭といった方がしっくりくるほど日本っぽさを感じますね。曲名の通りオノマトペが歌詞の随所、というか4割ぐらいを占めていて、その使いどころやチョイスがやはりセンスを感じさせます。純真な無邪気さが揺らいでいくような描写が鋭く恐ろしい。
11. 100年前の僕、100年後の君 ★★★★
一転してブレイクコアのフレーバーが組まれたシリアスな一曲。こちらもアルバム書き下ろし曲。珍しく字余りしそうなほど歌詞のフレーズが長く、表現もストレートで、その分だけ曲の必死さを感じさせます。一歩間違えると不協和音になってしまいそうなメロディの不安定さが、詞世界の感情の不安定さを表しているようで逸品。
12. こどものしくみ ★★★★★
こちらで紹介済み。M9と同じく。
13. こあ ★★★★★
ラストもアルバム書き下ろし曲。曲長が8分越えと氏の中でもダントツで長い曲です。それに反し歌詞の量は他楽曲の2~3分の1ほど。しかしその少ない歌詞と、一音一音大事そうに紡ぎ出されたサウンドが、今作のテーマ全てを表しているかの如く熱い情報量が込められていて、まさに傑作と呼べるでしょう。おそらくこの5年半、彼が初めて曲を発表してからここまでの道、その経験がこの楽曲を作り上げたのだと感じます。M5をベストナンバーと綴りましたが、今作もまた、ベストナンバーです。
[総評]
「死生観」という大きなテーマに真っ向から挑んだ今回のアルバム、その中に込められた思いは100%理解はできずとも十二分に自分の死生観を揺るがすほどの強さを持っていました。現実と幻想を繋げ広げたところにある彼の死生観は、どうしようもなく魅力的で、諦めと希望が入り混じったような複雑な、しかしどこか居心地が良い、そんな心情をもたらしてくれました。何より今作で感じ取った彼の「客観性」と「主観性」の融合は、更にステージを一段上げたような、いや、むしろ今までのステージを乗り越え新しいステージに一歩踏み出し挑戦を始めたような、そんな素敵な未来さえ感じさせます。VOCALOIDの魅力を最大限にまで磨き上げ、これから彼は一体どういった道を進んでいくのでしょう。非常に楽しみです。それでは皆さん、良いお年を。
★★★★★
今回のこのアルバムは今月3日にリリースされたばかりですが、やはり「2014年で一番良かったアルバム」として今年最後のこの日に紹介させていただきます。
と言っても今年発売されたアルバムはそれほど数を聴いていないので、「暫定的に」という言葉を念のために付加しておきたいと思いますね。
それでは以下全曲レビュー&総評です。
[全曲レビュー]
1. しぼう ★★★★
ゆったりとした流れのある優しい水底に沈んだような前半から、突如として狂ったようにギター、ドラム、果てにはボーカルが暴れだす。メルヘンチックな世界観に没入させて、ハッと現実を突きつけるようなピノキオピーらしいオープニング。今作のテーマを決定づける印象的な一曲です。うおうおうお
2. はじめまして地球人さん ★★★★☆
アップテンポでポップな一曲。来年発売される3DSゲームソフト『初音ミク Project mirai でらっくす』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲です。ピノキオピーさんはよくアルバム書き下ろし曲にこのような爽やかで明るい曲を入れたりするのですが(1stメジャーの「ジゼミ・イン・ザ・アンダーグラウンド」然り、自主制作2ndの「ファンタジーへようこそ」然り、自主制作3rdの「とうめい」然り)、今作は珍しくシングルカットされるようです(ゲーム発売に合わせてなので来年初頭になるでしょう)。「明るく爽やか」といってもやはり歌詞はピノキオピー氏の真骨頂。人間を客観的に捉え、ハッとするフレーズが随所に埋め込まれています。それでもなお愛そうとするその姿勢は、やはり尊敬してやまない。
3. よいこのくすり ★★★★☆
ポップでキャッチーながらも哀愁を感じる一曲。この諦観漂う感じは氏の3rdアルバム「遊星まっしらけ」の表題曲を彷彿とさせますね。サビの叙情的な歌詞にホロリとさせられるのは勿論のこと、A~Cメロの歌詞表現に唸らされます。
4. 絵の上手かった友達 ★★★★
シンセのリフが素敵な、氏には珍しいストレートなラブソング。ストレートと言っても、歌詞の言葉選びがストレートというだけで内容は「男の子をフッた女の子側の視点」という捻くれ具合。3rdのM6「アッカンベーダ」でもそうですが、何故男性のあなたが年頃の女の子の心的表情をここまでリアル且つダイナミックに表現できるのか・・。名曲です。
5. すろぉもぉしょん ★★★★★
今作のベストナンバー。ミクやゆっくりのような電子音声によく合ったデジタルなサウンドながら、昭和歌謡的で懐かしさを感じさせるメロディーとお祭り騒ぎなノリの良さで、一発で心を鷲掴みにされました。何より抜きん出て良いのは歌詞ですね。なんというか、今までのピノキオピー氏の歌詞は、自身の経験を元にした主観的なものが少ない印象があったんですよね。どれも他の既製物や人の行動を傍から眺めて、そっから感じ取ったことを描いているという印象がありました(いわば天界から人間界を見下ろして曲を作っている感じですね)。と言ってもそれは決して悪いことではなく、それ故にぼくは彼の鋭い観察眼に強く惹かれたのですが。しかし今作「すろぉもぉしょん」で、彼は地に足を下ろしました。そんな彼の人間臭さが全面に出ていると感じます。そして足を下ろしただけでなく、それまで観察してきたものを全て肯定し、許してしまいました。「そんなもんだ」と。ついにここまで来てしまったのか。一体こっからどこへ向かうつもりなんだあなたは!・・・とだんだん熱くなってきたところでどれだけこの曲が自分の心を動かしたのかはもうお分かりになられたと思うので、この辺にしておきます。
6. Last Continue ★★★★☆
エレクトロ成分マシマシの一曲。原曲は2009年3月頃に発表された氏の自作曲「Continue」。2010年2月頃に発表され2ndアルバムにも収録された「Re:Continue」を含め2度目のリメイクが本作となります。エレクトロ成分が増え、大幅にアレンジが加えられた本作・・・簡潔にいうと、アレンジでここまで詞の印象が変わるのか!と改めて驚かされました。正直、原曲と一度目のリメイクまでは氏の楽曲の中ではあまり目立たない印象を持っていたんです。割と明るめの雰囲気で「あの日に戻れたらいいのにな」というストレートに後ろ向きな歌詞、加えてサビのメロと歌声が単調だったので、チープな印象を持ってしまっていました(ギターソロはとても好き)。しかし今作は一転して低音のシンセベースが畝ねるシリアスな雰囲気。曲もメロも展開に幅があり飽きさせない。何よりボーカルの調整と歌詞のマッチ具合が素晴らしい。そして改めて「Re:Continue」を聴くと、また印象が変わってくるのがわかります。見事に生まれ変わり、曲として完成した一曲だと思います。
7. たりないかぼちゃ ★★★★☆
ファミマ×VOCALOIDのハロウィン企画で制作された一曲。ブラスを多用したビッグバンド風×ピコピコ音楽といった面白い構成。曲調もお祭り騒ぎで楽しいです。その一方歌詞の方はというと・・・ああなるほど、「たりない」はそっちの「たりない」なんですね。相変わらず捻くれていて素晴らしいです。ピノキオピー氏のこういう歌詞は「皮肉」と捉える人も多いですが、ぼくとしては皮肉でもなんでもなく、氏の「本心」なのではないかなあと思ったりしますが、どうなんでしょうか。全てを理解した上であえてそっちへ行きたいなんて、とても素敵じゃありませんかね。それはまあ置いといて、こっちの意味での「たりない」は最近だと阿部共実先生の漫画「ちーちゃんはちょっと足りない」が印象的で耳に残っていますが、その辺りからヒントを得たのでしょうか。そちらも個人的には気になるところです。
8. ヒーローが来ない ★★★★☆
アルバム書き下ろし曲。こちらもM2と同じく「明るく爽やか」な曲調。題材はヒーローものなのにひたすら退廃的な現実を突きつけて辛い曲です。こんなに思いつめているのにヒーローは来ない・・・どうして・・・。曲の展開がとても好き。
9. ニナ ★★★★★
こちらで紹介済み。リマスタリングされていて音がより一層キラキラと輝いて聴こえます。M8→M9→M10の流れが素晴らしい。
10. ラブ イズ オノマトペ ★★★★★
ドンドコドコドコな一曲。サウンドはエレクトロハウスを土台にした感じのダンス系ミュージックですが、ダンスというより音頭といった方がしっくりくるほど日本っぽさを感じますね。曲名の通りオノマトペが歌詞の随所、というか4割ぐらいを占めていて、その使いどころやチョイスがやはりセンスを感じさせます。純真な無邪気さが揺らいでいくような描写が鋭く恐ろしい。
11. 100年前の僕、100年後の君 ★★★★
一転してブレイクコアのフレーバーが組まれたシリアスな一曲。こちらもアルバム書き下ろし曲。珍しく字余りしそうなほど歌詞のフレーズが長く、表現もストレートで、その分だけ曲の必死さを感じさせます。一歩間違えると不協和音になってしまいそうなメロディの不安定さが、詞世界の感情の不安定さを表しているようで逸品。
12. こどものしくみ ★★★★★
こちらで紹介済み。M9と同じく。
13. こあ ★★★★★
ラストもアルバム書き下ろし曲。曲長が8分越えと氏の中でもダントツで長い曲です。それに反し歌詞の量は他楽曲の2~3分の1ほど。しかしその少ない歌詞と、一音一音大事そうに紡ぎ出されたサウンドが、今作のテーマ全てを表しているかの如く熱い情報量が込められていて、まさに傑作と呼べるでしょう。おそらくこの5年半、彼が初めて曲を発表してからここまでの道、その経験がこの楽曲を作り上げたのだと感じます。M5をベストナンバーと綴りましたが、今作もまた、ベストナンバーです。
[総評]
「死生観」という大きなテーマに真っ向から挑んだ今回のアルバム、その中に込められた思いは100%理解はできずとも十二分に自分の死生観を揺るがすほどの強さを持っていました。現実と幻想を繋げ広げたところにある彼の死生観は、どうしようもなく魅力的で、諦めと希望が入り混じったような複雑な、しかしどこか居心地が良い、そんな心情をもたらしてくれました。何より今作で感じ取った彼の「客観性」と「主観性」の融合は、更にステージを一段上げたような、いや、むしろ今までのステージを乗り越え新しいステージに一歩踏み出し挑戦を始めたような、そんな素敵な未来さえ感じさせます。VOCALOIDの魅力を最大限にまで磨き上げ、これから彼は一体どういった道を進んでいくのでしょう。非常に楽しみです。それでは皆さん、良いお年を。
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category: VOCALOID
鼻そうめんP「WORKS 11-14」(2014) レビュー
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鼻そうめんP氏はトランス系の楽曲を主に制作しているミュージシャンで、上記サイトでは自作曲を初めて投稿したのが2007年頃と、かなり初期から活動を続けています。
さらにここで特筆しておかねばならぬことは、この方は「Hiroyuki ODA」名義で世界的に有名なトランス系ミュージシャンであるということと、「かんざきひろ」「織田広之」名義で人気の高いイラストレーター(アニメーター)であるということです。
おそらく若い方ならかんざきひろ、おっさんならHiroyuki ODAでピンとくる方も多いかと思われます。勿論、鼻そうめんP名義を知っている方ならどちらの名義もご存知でしょうし、二方向に突き抜けた技術に畏怖している方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。ぼくもしてます。
というわけでそんな鼻そうめんPの今回ご紹介するアルバムは、先日の15~17日に行われたコミックマーケット86にて販売された仕入れたてホヤホヤのものです。
勿論、歌詞を除いた収録曲の作曲編曲マスタリングからアルバムのアートワークまで全て彼一人の仕事。隅々まで妥協のないプロの仕事です。いやはや、ここまでくると仕事と趣味の境界線なんて微塵も感じさせませんね・・。
というわけで以下全曲レビュー&総評です。
[全曲レビュー]
1. Plug Out (HSP 2012 Remix) ★★★★☆
2008年に発表された同名楽曲のセルフリミックス。作詞はchu-ji氏。原曲よりも短く太い仕上がりになっています。重低音の音圧がとんでもなく気持ちいい。サビの摩擦をかけたようなワブルベースで飛びそうになります。
2. Unfragment (Hiroyuki ODA 2012 Remix) ★★★★
こちらも2009年に発表された楽曲のセルフリミックス。作詞はchu-ji氏。こちらもベースの刺激が増してトリップ感が強くなっています。緩急が非常に巧みで、7分半ですら短く感じさせますね。あえてタイトルにHSPでなくHiroyuki ODAの名前を用いているのは、サウンドにそれぞれのこだわりを持たせているからでしょうか。
3. Gift Nor Art ★★★★☆
作詞はchu-ji氏。非常に密度が高くアシッドなサウンド。微細な変化で楽しませるのがトランスというジャンルだとぼくは認知しているのですが、こちらの曲は中盤からかなり大胆にブレイクしてますね。一気に与えられる開放感にトリップしそうです。それとこれだけ音圧のあるサウンドだとなかなか注目がいきませんが、主旋律も綺麗でキャッチー。ミクの声が非常に耳心地良いです。
4. Scapecoat ★★★☆
アグレッシブなドラムンベース。ジワジワ音程が上ずるベースが非常にカッコ良いです。アルバムの流れとしてもかなり良いアクセントになっていると感じます。ただちょっとミクの歌声がフラット気味に聴こえるのが惜しい。
5. Idiolect ★★★★
こちらもバキバキのベースがうねるトランスミュージック。ただボーカルがしっとりとしているせいもあってか、他の曲と比べると落ち着いた印象を持ちます。しかしこちらも中盤からの開放感がとても良く、前半の渋い雰囲気と対になる形で面白い作品に仕上がっているなと感じますね。
6. Sune○ (2012 Remix) ★★★★
名作及び迷作。タイトルを見て「まさか」と思う方もいらっしゃるかとは思いますが、そのまさかです。ドラえもんのスネ夫が自慢話する時に流れるBGMのリミックスです。なんだそれ。ファンコットを彷彿とさせる高速キックとポコポコしたシンセが非常に気持ちの良いグルーヴ感を生み出していて、そこはかとなく悔しいですがとてもカッコ良い仕上がりになっています。
7. Phantom (Remix) ★★★
こちらは2010年に発表された楽曲のセルフリミックス。珍しく鼻そうめんP名義でボーカルをVOCALOIDでなく人に歌ってもらっている作品です。作詞はyuiko氏とaya*k氏で、ボーカルがyuiko氏。今アルバム内で一番ボーカル曲っぽさが強いのですが、一番トランス要素が強い曲でもありますね。曲の長さも最長で9分20秒。サウンドと展開美のおかげで冗長には感じませんが、ただ主旋律がキャッチーすぎるせいで繰り返してると飽きがきてしまうと感じました。サウンドで盛り上がるか歌で盛り上がるかどっちつかずだなあといった感じ。惜しい。
8. Stop Me (Extended Mix) ★★★★
こちらも2012年に発表された楽曲のセルフリミックス。頻繁に自分の曲のセルフリミックスをするところがプロのDJっぽいですね。作詞は引き続きyuiko氏。昭和80年代を意識したちょいダササウンドと氏が培った技術が組み合わさっていてとても気持ち良い。こんなおっさんサウンドをミクが歌っていて、しかも絶妙にマッチしているというのが面白いですね。
9. Desperate ★★★★
作詞はざにお氏。コメディの要素の強い歌詞とヤケクソ感溢れるドラムンベース。このノリの良さがアルバム全体としてもスパイスになってとても良いですね。特にタイトなスネアとゴリゴリのベースの組み合わせが素敵です。
10. Scapecoat (Hiroyuki ODA Remix) ★★★★
ラストはM4のセルフリミックス。耳心地の良いトランスに昇華されています。やはりこのメロディーラインはドラムンベースよりもトランスの方が自然に感じるなあと思いました。ミクの歌声がサウンドに溶け込んで思わずため息が溢れてしまいます。非常に良い余韻に浸れるラストでした。
[総評]
トランスの展開美をこれでもかと気持ちよく仕上げた前時代的な硬派なサウンドと、現代で親しまれているワブルベースなどの流行を取り入れた攻撃的なサウンドの融合が素晴らしいと思いました。前作では一貫してトランス、といった印象を受けましたが(当たり前といえば当たり前)、今作ではダブステップやドラムンベースなど、今までには見られなかった新たなサウンドに挑戦されていて、それがまたトランスを下地にしているので個性的で面白い。勿論、トランスのクオリティは言わずもがな。そしてやはりCD媒体で聴くと動画媒体で聴いた時とは全然印象が違っていたりもしますね。特に重低音の響きは是非とも高音質で聴いてもらいたい。それと、これは「鼻そうめんP」名義ならではだと思いますが、メロディがどれもポップで聴きやすいですね。おそらくニコニコのメイン層向けに彼なりにキャッチーなものを選んでいるのではないかと思いますが、それがまたサウンドに適した丁度いいポップ感になっていると個人的に感じました。ただ、時々このキャッチーさが故にメロディの繰り返しで飽きがきてしまうところがあるのが現時点で自分が感じたマイナス点ですかねえ。といってもそんなマイナス点も微々たるもので、サウンドの心地よさに圧倒されてしまうのがほとんどですが。いやしかし、彼はこれだけ高い位置にいながら更に進化を繰り返してます。恐ろしい。これからの活動にも大いに期待しています。
★★★★
さらにここで特筆しておかねばならぬことは、この方は「Hiroyuki ODA」名義で世界的に有名なトランス系ミュージシャンであるということと、「かんざきひろ」「織田広之」名義で人気の高いイラストレーター(アニメーター)であるということです。
おそらく若い方ならかんざきひろ、おっさんならHiroyuki ODAでピンとくる方も多いかと思われます。勿論、鼻そうめんP名義を知っている方ならどちらの名義もご存知でしょうし、二方向に突き抜けた技術に畏怖している方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。ぼくもしてます。
というわけでそんな鼻そうめんPの今回ご紹介するアルバムは、先日の15~17日に行われたコミックマーケット86にて販売された仕入れたてホヤホヤのものです。
勿論、歌詞を除いた収録曲の作曲編曲マスタリングからアルバムのアートワークまで全て彼一人の仕事。隅々まで妥協のないプロの仕事です。いやはや、ここまでくると仕事と趣味の境界線なんて微塵も感じさせませんね・・。
というわけで以下全曲レビュー&総評です。
[全曲レビュー]
1. Plug Out (HSP 2012 Remix) ★★★★☆
2008年に発表された同名楽曲のセルフリミックス。作詞はchu-ji氏。原曲よりも短く太い仕上がりになっています。重低音の音圧がとんでもなく気持ちいい。サビの摩擦をかけたようなワブルベースで飛びそうになります。
2. Unfragment (Hiroyuki ODA 2012 Remix) ★★★★
こちらも2009年に発表された楽曲のセルフリミックス。作詞はchu-ji氏。こちらもベースの刺激が増してトリップ感が強くなっています。緩急が非常に巧みで、7分半ですら短く感じさせますね。あえてタイトルにHSPでなくHiroyuki ODAの名前を用いているのは、サウンドにそれぞれのこだわりを持たせているからでしょうか。
3. Gift Nor Art ★★★★☆
作詞はchu-ji氏。非常に密度が高くアシッドなサウンド。微細な変化で楽しませるのがトランスというジャンルだとぼくは認知しているのですが、こちらの曲は中盤からかなり大胆にブレイクしてますね。一気に与えられる開放感にトリップしそうです。それとこれだけ音圧のあるサウンドだとなかなか注目がいきませんが、主旋律も綺麗でキャッチー。ミクの声が非常に耳心地良いです。
4. Scapecoat ★★★☆
アグレッシブなドラムンベース。ジワジワ音程が上ずるベースが非常にカッコ良いです。アルバムの流れとしてもかなり良いアクセントになっていると感じます。ただちょっとミクの歌声がフラット気味に聴こえるのが惜しい。
5. Idiolect ★★★★
こちらもバキバキのベースがうねるトランスミュージック。ただボーカルがしっとりとしているせいもあってか、他の曲と比べると落ち着いた印象を持ちます。しかしこちらも中盤からの開放感がとても良く、前半の渋い雰囲気と対になる形で面白い作品に仕上がっているなと感じますね。
6. Sune○ (2012 Remix) ★★★★
名作及び迷作。タイトルを見て「まさか」と思う方もいらっしゃるかとは思いますが、そのまさかです。ドラえもんのスネ夫が自慢話する時に流れるBGMのリミックスです。なんだそれ。ファンコットを彷彿とさせる高速キックとポコポコしたシンセが非常に気持ちの良いグルーヴ感を生み出していて、そこはかとなく悔しいですがとてもカッコ良い仕上がりになっています。
7. Phantom (Remix) ★★★
こちらは2010年に発表された楽曲のセルフリミックス。珍しく鼻そうめんP名義でボーカルをVOCALOIDでなく人に歌ってもらっている作品です。作詞はyuiko氏とaya*k氏で、ボーカルがyuiko氏。今アルバム内で一番ボーカル曲っぽさが強いのですが、一番トランス要素が強い曲でもありますね。曲の長さも最長で9分20秒。サウンドと展開美のおかげで冗長には感じませんが、ただ主旋律がキャッチーすぎるせいで繰り返してると飽きがきてしまうと感じました。サウンドで盛り上がるか歌で盛り上がるかどっちつかずだなあといった感じ。惜しい。
8. Stop Me (Extended Mix) ★★★★
こちらも2012年に発表された楽曲のセルフリミックス。頻繁に自分の曲のセルフリミックスをするところがプロのDJっぽいですね。作詞は引き続きyuiko氏。昭和80年代を意識したちょいダササウンドと氏が培った技術が組み合わさっていてとても気持ち良い。こんなおっさんサウンドをミクが歌っていて、しかも絶妙にマッチしているというのが面白いですね。
9. Desperate ★★★★
作詞はざにお氏。コメディの要素の強い歌詞とヤケクソ感溢れるドラムンベース。このノリの良さがアルバム全体としてもスパイスになってとても良いですね。特にタイトなスネアとゴリゴリのベースの組み合わせが素敵です。
10. Scapecoat (Hiroyuki ODA Remix) ★★★★
ラストはM4のセルフリミックス。耳心地の良いトランスに昇華されています。やはりこのメロディーラインはドラムンベースよりもトランスの方が自然に感じるなあと思いました。ミクの歌声がサウンドに溶け込んで思わずため息が溢れてしまいます。非常に良い余韻に浸れるラストでした。
[総評]
トランスの展開美をこれでもかと気持ちよく仕上げた前時代的な硬派なサウンドと、現代で親しまれているワブルベースなどの流行を取り入れた攻撃的なサウンドの融合が素晴らしいと思いました。前作では一貫してトランス、といった印象を受けましたが(当たり前といえば当たり前)、今作ではダブステップやドラムンベースなど、今までには見られなかった新たなサウンドに挑戦されていて、それがまたトランスを下地にしているので個性的で面白い。勿論、トランスのクオリティは言わずもがな。そしてやはりCD媒体で聴くと動画媒体で聴いた時とは全然印象が違っていたりもしますね。特に重低音の響きは是非とも高音質で聴いてもらいたい。それと、これは「鼻そうめんP」名義ならではだと思いますが、メロディがどれもポップで聴きやすいですね。おそらくニコニコのメイン層向けに彼なりにキャッチーなものを選んでいるのではないかと思いますが、それがまたサウンドに適した丁度いいポップ感になっていると個人的に感じました。ただ、時々このキャッチーさが故にメロディの繰り返しで飽きがきてしまうところがあるのが現時点で自分が感じたマイナス点ですかねえ。といってもそんなマイナス点も微々たるもので、サウンドの心地よさに圧倒されてしまうのがほとんどですが。いやしかし、彼はこれだけ高い位置にいながら更に進化を繰り返してます。恐ろしい。これからの活動にも大いに期待しています。
★★★★
category: VOCALOID
きくお「きくおミク2」(2012) レビュー
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きくお氏のアルバムは以前に1stボカロオリジナルアルバムの「きくおミク」も当ブログで取り上げているので、そちらも良かったらご覧下さい。(リンクはこちら)
[全曲レビュー]
1. 楽しい楽しい悪夢へおいで ★★★
45秒のプロローグ。このまま展開入れても良いんじゃないかってくらいメロや雰囲気が良いのですが、そこを出し惜しみしない辺りにアルバムへの熱量を感じます。
2. 幸福な死を ★★★★☆
幻想的な入りからグワングワンとしたワブルベースがうねるイントロへの開放感が圧巻。これでもかというほど静と動をつけているのですが、微塵も地味だとか五月蝿いだとかそういったものは感じず、ただただ美しい曲。
3. 赤ずきんの狼 ★★★★★
本作のベストチューン。非常に歌詞やメロディが良いだとか構成やメロハリに富んでいるだとかといったことは勿論として、遊び心のある音ネタがわかりやすく散りばめられていて、至極真面目でお洒落な曲ながら「赤ずきん」という童謡の幼さが雰囲気としてよく表されている気がします。いつまでも聴いていたい名曲。
4. 君が死んでも許してあげるよ ★★★★
いつもの幻想的な雰囲気にカントリーチックなフレーバーを加えたような楽曲。心地よいビートとメロディー。
5. 水の中で ★★★★
タイトルの通りフワフワと水に揺らんでいるような1曲。ストリングスが良い雰囲気を醸し出しています。意外と展開が一筋縄でいかず、色々な方向へ分岐していき突然我に返るような感覚が面白いです。
6. 世界で一番優しい死神 ★★★★
溶けるような感覚に陥る静かな1曲。α波が出ていて少し眠たくなりますが、良い曲です。抱擁されているような安心感を感じさせますね。そして安心を与えた後にM7へと続くところが笑えます。
7. 塵塵呪詛 ★★★★☆
今アルバムの問題作1。こんなのきくお氏にしか作れないんじゃないでしょうか。宗教音楽だとか民族音楽だとかを連想させる雰囲気で、且つとんでもなくポップで聴きやすい楽曲。発想がぶっ飛んでいますが構成やアレンジの巧みっぷりは流石といったところ。ノレる宗教音楽という唯一無二のジャンルへ到達しています。
8. ぽっかんカラー ★★★★
兎眠りおんというVOCALOIDのデモソングとして作られた楽曲。リズミカルでゲーム音楽を彷彿とさせる明るい曲調ですが、どこか切なさを感じるメロディーと歌詞がきくお氏らしいですね。
9. 星くずの掃除婦 ReArrange ver. ★★★★
1stアルバムに収録された同名楽曲のセルフアレンジ。原曲からより静かに柔らかな雰囲気になりました。完全に原曲の上位互換、というわけではなく、どちらも甲乙付けがたい名曲です。
10. さかさまうちゅう ★★★★
Miku Creator's Project on Google+という企画で4時間で作り上げた楽曲。詳しくはこちらを参照ください。音作りへの妥協はしたくないとのことで1分30秒と短い作品になりましたが、個人的には是非フル尺でリアレンジしてほしいぐらい好きな曲です。きくお氏のファンタジーな感覚世界が全面に押し出されていて、1秒で持ってかれます。
11. ごめんね ごめんね ★★★★★
今アルバムの問題作2。エグい表現が多用される歌詞とアコーディオンの美しさの対比が素晴らしい。そしてM2よりも更に低音が攻撃的なワブルベースが非常に良い味を出しています。Aメロ→Bメロ→サビと王道的な構成ですが、この流れの気持ちよさはアルバム1ですね。
12. そして君は月になった ★★★★
ラストトラック。1stの「僕をそんな目で見ないで」に近い雰囲気と構成ですね。こちらはおもちゃ箱の中でおもちゃのオーケストラが演奏しているような可愛らしさを感じます。一方で、命がボロボロと崩れ落ちていくような破滅的な歌詞は哀愁を増幅させていてこちらもまた素晴らしい。きくお氏の楽曲は、歌詞とメロディとアレンジの相互作用に真髄が見えますね。
[総評]
退廃的な死生観を感じる歌詞は1stと変わらず魅力的で、さらに1stと比べてアルバム全体のメリハリとポップさが強くなったと感じました。特に顕著なのはM2やM11といったワブルベースをふんだんに用いた攻撃的な音の楽曲。そしてその前後であるM1とM12に持ってきている特に静かな楽曲。これらが大きなアクセントとなってアルバム全体に大きなうねりを出し、一つ一つの濃い楽曲群を匠にまとめあげているのだと感じました。そしてその楽曲群も上で述べている通り本当に幅が広く面白い楽曲ばかりなのが凄いです。一つ一つ細部までこだわりぬいているので初めて聴く時も安心感や期待があり、その期待を軽く超えてくるような富んだ発想がありと、少なくとも楽曲の構成力の面では若手の中でも飛び抜けているのではないでしょうか。ただこの方の特徴として、楽曲の音数が多いので、綺麗にまとめあげているとはいえ聴き疲れを起こす部分もあるかとは思うのでそこだけ惜しいと感じるところですかね。やはり音数を多くして豪華に聴かせるよりも、なるべく少なくシンプルにまとめあげる方が芸術としてより良い姿なのではないかと自分も思うところはあるので。とかなんとか言うものの名盤であることに変わりはありません。これからどう変化していくのか楽しみなクリエイターです。と、このまとめ文句は最新のアルバムのレビューで言うべきですね(笑)
★★★★☆
[全曲レビュー]
1. 楽しい楽しい悪夢へおいで ★★★
45秒のプロローグ。このまま展開入れても良いんじゃないかってくらいメロや雰囲気が良いのですが、そこを出し惜しみしない辺りにアルバムへの熱量を感じます。
2. 幸福な死を ★★★★☆
幻想的な入りからグワングワンとしたワブルベースがうねるイントロへの開放感が圧巻。これでもかというほど静と動をつけているのですが、微塵も地味だとか五月蝿いだとかそういったものは感じず、ただただ美しい曲。
3. 赤ずきんの狼 ★★★★★
本作のベストチューン。非常に歌詞やメロディが良いだとか構成やメロハリに富んでいるだとかといったことは勿論として、遊び心のある音ネタがわかりやすく散りばめられていて、至極真面目でお洒落な曲ながら「赤ずきん」という童謡の幼さが雰囲気としてよく表されている気がします。いつまでも聴いていたい名曲。
4. 君が死んでも許してあげるよ ★★★★
いつもの幻想的な雰囲気にカントリーチックなフレーバーを加えたような楽曲。心地よいビートとメロディー。
5. 水の中で ★★★★
タイトルの通りフワフワと水に揺らんでいるような1曲。ストリングスが良い雰囲気を醸し出しています。意外と展開が一筋縄でいかず、色々な方向へ分岐していき突然我に返るような感覚が面白いです。
6. 世界で一番優しい死神 ★★★★
溶けるような感覚に陥る静かな1曲。α波が出ていて少し眠たくなりますが、良い曲です。抱擁されているような安心感を感じさせますね。そして安心を与えた後にM7へと続くところが笑えます。
7. 塵塵呪詛 ★★★★☆
今アルバムの問題作1。こんなのきくお氏にしか作れないんじゃないでしょうか。宗教音楽だとか民族音楽だとかを連想させる雰囲気で、且つとんでもなくポップで聴きやすい楽曲。発想がぶっ飛んでいますが構成やアレンジの巧みっぷりは流石といったところ。ノレる宗教音楽という唯一無二のジャンルへ到達しています。
8. ぽっかんカラー ★★★★
兎眠りおんというVOCALOIDのデモソングとして作られた楽曲。リズミカルでゲーム音楽を彷彿とさせる明るい曲調ですが、どこか切なさを感じるメロディーと歌詞がきくお氏らしいですね。
9. 星くずの掃除婦 ReArrange ver. ★★★★
1stアルバムに収録された同名楽曲のセルフアレンジ。原曲からより静かに柔らかな雰囲気になりました。完全に原曲の上位互換、というわけではなく、どちらも甲乙付けがたい名曲です。
10. さかさまうちゅう ★★★★
Miku Creator's Project on Google+という企画で4時間で作り上げた楽曲。詳しくはこちらを参照ください。音作りへの妥協はしたくないとのことで1分30秒と短い作品になりましたが、個人的には是非フル尺でリアレンジしてほしいぐらい好きな曲です。きくお氏のファンタジーな感覚世界が全面に押し出されていて、1秒で持ってかれます。
11. ごめんね ごめんね ★★★★★
今アルバムの問題作2。エグい表現が多用される歌詞とアコーディオンの美しさの対比が素晴らしい。そしてM2よりも更に低音が攻撃的なワブルベースが非常に良い味を出しています。Aメロ→Bメロ→サビと王道的な構成ですが、この流れの気持ちよさはアルバム1ですね。
12. そして君は月になった ★★★★
ラストトラック。1stの「僕をそんな目で見ないで」に近い雰囲気と構成ですね。こちらはおもちゃ箱の中でおもちゃのオーケストラが演奏しているような可愛らしさを感じます。一方で、命がボロボロと崩れ落ちていくような破滅的な歌詞は哀愁を増幅させていてこちらもまた素晴らしい。きくお氏の楽曲は、歌詞とメロディとアレンジの相互作用に真髄が見えますね。
[総評]
退廃的な死生観を感じる歌詞は1stと変わらず魅力的で、さらに1stと比べてアルバム全体のメリハリとポップさが強くなったと感じました。特に顕著なのはM2やM11といったワブルベースをふんだんに用いた攻撃的な音の楽曲。そしてその前後であるM1とM12に持ってきている特に静かな楽曲。これらが大きなアクセントとなってアルバム全体に大きなうねりを出し、一つ一つの濃い楽曲群を匠にまとめあげているのだと感じました。そしてその楽曲群も上で述べている通り本当に幅が広く面白い楽曲ばかりなのが凄いです。一つ一つ細部までこだわりぬいているので初めて聴く時も安心感や期待があり、その期待を軽く超えてくるような富んだ発想がありと、少なくとも楽曲の構成力の面では若手の中でも飛び抜けているのではないでしょうか。ただこの方の特徴として、楽曲の音数が多いので、綺麗にまとめあげているとはいえ聴き疲れを起こす部分もあるかとは思うのでそこだけ惜しいと感じるところですかね。やはり音数を多くして豪華に聴かせるよりも、なるべく少なくシンプルにまとめあげる方が芸術としてより良い姿なのではないかと自分も思うところはあるので。とかなんとか言うものの名盤であることに変わりはありません。これからどう変化していくのか楽しみなクリエイターです。と、このまとめ文句は最新のアルバムのレビューで言うべきですね(笑)
★★★★☆
category: VOCALOID
ハチ「OFFICIAL ORANGE」(2010) レビュー
当ブログの総閲覧数が1000を超えました。つい2ヶ月前に100を越したばかりだったのに、驚きです。ありがとうございます。
今回はニコニコ動画にて主にVOCALOIDを用いた楽曲を発表しているミュージシャン、ハチの自主制作2ndアルバム「OFFICIAL ORANGE」を紹介します。
-- 続きを読む --
ハチ氏は2008年頃より上記サイトにて楽曲を発表し始め(初期は自身による歌唱の楽曲を投稿していた)、2009年5月頃よりVOCALOIDを用いた作品を発表するようになりました。そして同年7月に投稿された楽曲「結ンデ開イテ羅刹ト骸」を皮切りに人気が爆発、現在では上記サイトだけでも100万再生を超える人気VOCALOID楽曲を9本も抱える、トップクラスの人気を誇るVOCALOIDプロデューサーという立ち位置を手に入れています。
また、ハチ氏は2012年頃より「米津玄師」名義でシンガーソングライターとしてもデビューしており、そちらも話題になっていますね。
当ブログでも米津玄師名義の1stアルバム「diorama」を過去にレビューしているので、そちらも一緒にご覧になってみてください。(リンクはこちら)
また、余談ですが、米津玄師名義の2ndアルバム「YANKEE」のリリースが最近発表されたので、そちらも楽しみです。
以下全曲レビュー&総評。
[全曲レビュー]
1. パンダヒーロー ★★★★☆
本作のアッパーチューン。圧倒的な情報量とキャッチーさで聴く者を威圧し、まるで「このノリに付いていける者だけが残れ」と振るいにかけているかのようにも思えてしまいます。上記サイトにて投稿されている楽曲ですが、投稿版とは微妙にアレンジが違い、こちらの方が厚みがあって好きですね。
2. 演劇テレプシコーラ ★★★☆
3拍子のロック。鍵盤の進行が特徴的で面白いですね。サビもメリハリがあって良いですが、全体的に少し地味に感じたのでこの評価。
3. リンネ ★★★★
こちらもテンションの高いアッパーチューン。音数が多く騒がしめですが、音選びの良さと圧倒的なキャッチーさがむしろそれを心地よくしているといった印象。特にイントロは抜群に気持ちいいですね。
4. 神様と林檎飴 ★★★☆
カントリー風味でマーチを彷彿とさせる可愛らしい楽曲。特に強く印象には残りませんでしたが絶妙な音の外し方で退廃的な表現をしている部分は流石。
5. 結んで開いて羅刹と骸 (retake) ★★★★☆
ホラーテイストな和ロック。投稿版のリテイクということで、色々とテイストが変化しています。どう変化したかは実際聴いてみるのが一番ですが、一つ挙げるならベース音を厚くしたことで低域に広がりが出たことでしょうか。賑やかながら一筋縄ではいかない曲展開、メタファー的で単純ホラーとはまた違う澱んだ暗さを感じさせる歌詞、好きな部分を挙げたらキリがないですが、とりあえず名曲です。本人作の手書きPVも素晴らしい。
6. 沙上の夢喰い少女 ★★★
こちらもM2に雰囲気が近いロック。バンプからの影響が垣間見える優しいメロディーライン。メリハリもあり悪くないですが、他の曲に埋もれてしまいあまり印象に残らなかったのでこの評価。
7. 病棟305号室 ★★★★
本作のアッパーチューン(2つ目)。速いテンポでまくし立ててくる、脳内ドラッグ的な1曲。昨今このようなアップテンポ中毒曲が溢れかえっていますが、その中でもやはり頭一つ抜けた個性を感じます。なんでもかんでも速けりゃいいってもんじゃないですが、この方の曲は何故このテンポなのかというのが意味ありげに聴こえるんですよね。ちなみにこの楽曲は、ハチ氏が過去に発表した楽曲「雨降る街にて風船は悪魔と踊る」のリアレンジとなっています。
8. 眩暈電話 ★★★★
柔らかい音作りと広がりのあるサビ。ハチ氏の楽曲はどれもリズム隊に工夫が施されているイメージがあります。この曲も、カラカラといったスネアの縁を叩く音などが電話を彷彿とさせて、情景を深く描いています。
9. マトリョシカ ★★★★☆
本作のアッパーチューン(3つ目)にして、まあ文句なしのベストトラック。素っ頓狂なリフがタイトルの通りロシアをイメージさせますが、これ、そんなに従来のハチ氏の個性的なメロディーから外れていないんですよね。要するに相性がすごく良いということでしょうか。いずれにせよこれほどまでに個性的で且つ多くの人を引き込むほどのキャッチーさ、ノリの良さ。ぼくとしては名曲と言わざるをえないです。
10. 白痴 ★★★★
なんとも形容し難い1曲ですね。前衛的な印象を持たせつつ、サビでブワッと開放的に、といった構成。サビの開放感をより気持ちよくするために他の部分を徹底的に閉塞しているのが面白い。
11. ワンダーランドと羊の歌 ★★★★
賑やかで楽しいカントリーチックな1曲。間奏後の展開が特に好きですね。合いの手が良い味を出してます。
12. 遊園市街 ★★★
ラストトラックは本人歌唱。悪くないですが正直あまり印象には残りませんでした。雰囲気としてはM8に近い感じ。M8より爽やかで近年のJ-ROCK的。やはり本人がバンプ好きとあって、こういった曲にはモロに影響が感じられますね。メロディーは悪くないですがアレンジにもう一工夫欲しかったところ。
[総評]
派手なアレンジにテンションの高い楽曲の多さから、少なからず若さがにじみ出ているものの、それとは逆に年季すら感じさせる独特な世界観の完成っぷりは一目置くほどのものだと思います。このアルバムの1年半後に発表された米津玄師名義のアルバムと比較しても、アレンジの基軸は変化しているものの、メロディーと歌詞で織り成される根本的な雰囲気はずっしりと土台に座ったままなんら変化していないと感じます。それでいてそれらが人を惹きつける力も凄まじい。アングラ的なストイックさすら感じさせるのにこれほどまでに多くの人気を得ているのは、キャッチーな曲調そのものだけでなくこの安定した基盤の上に成り立っているハチ氏の脳内世界そのものが魅力的だからでしょう。若さ故の弾けっぷりを考えると、ある意味ではこのアルバムがハチ氏の世界の一つの集大成なのかもしれません。これからハチ氏、及び米津玄師氏がどう変化していくのかも気になりますが、もうこれ以上は味わえないであろうハチ氏の「若さ」が溢れたこのアルバムを楽しむのも一興だと思います。名盤。
★★★★
また、ハチ氏は2012年頃より「米津玄師」名義でシンガーソングライターとしてもデビューしており、そちらも話題になっていますね。
当ブログでも米津玄師名義の1stアルバム「diorama」を過去にレビューしているので、そちらも一緒にご覧になってみてください。(リンクはこちら)
また、余談ですが、米津玄師名義の2ndアルバム「YANKEE」のリリースが最近発表されたので、そちらも楽しみです。
以下全曲レビュー&総評。
[全曲レビュー]
1. パンダヒーロー ★★★★☆
本作のアッパーチューン。圧倒的な情報量とキャッチーさで聴く者を威圧し、まるで「このノリに付いていける者だけが残れ」と振るいにかけているかのようにも思えてしまいます。上記サイトにて投稿されている楽曲ですが、投稿版とは微妙にアレンジが違い、こちらの方が厚みがあって好きですね。
2. 演劇テレプシコーラ ★★★☆
3拍子のロック。鍵盤の進行が特徴的で面白いですね。サビもメリハリがあって良いですが、全体的に少し地味に感じたのでこの評価。
3. リンネ ★★★★
こちらもテンションの高いアッパーチューン。音数が多く騒がしめですが、音選びの良さと圧倒的なキャッチーさがむしろそれを心地よくしているといった印象。特にイントロは抜群に気持ちいいですね。
4. 神様と林檎飴 ★★★☆
カントリー風味でマーチを彷彿とさせる可愛らしい楽曲。特に強く印象には残りませんでしたが絶妙な音の外し方で退廃的な表現をしている部分は流石。
5. 結んで開いて羅刹と骸 (retake) ★★★★☆
ホラーテイストな和ロック。投稿版のリテイクということで、色々とテイストが変化しています。どう変化したかは実際聴いてみるのが一番ですが、一つ挙げるならベース音を厚くしたことで低域に広がりが出たことでしょうか。賑やかながら一筋縄ではいかない曲展開、メタファー的で単純ホラーとはまた違う澱んだ暗さを感じさせる歌詞、好きな部分を挙げたらキリがないですが、とりあえず名曲です。本人作の手書きPVも素晴らしい。
6. 沙上の夢喰い少女 ★★★
こちらもM2に雰囲気が近いロック。バンプからの影響が垣間見える優しいメロディーライン。メリハリもあり悪くないですが、他の曲に埋もれてしまいあまり印象に残らなかったのでこの評価。
7. 病棟305号室 ★★★★
本作のアッパーチューン(2つ目)。速いテンポでまくし立ててくる、脳内ドラッグ的な1曲。昨今このようなアップテンポ中毒曲が溢れかえっていますが、その中でもやはり頭一つ抜けた個性を感じます。なんでもかんでも速けりゃいいってもんじゃないですが、この方の曲は何故このテンポなのかというのが意味ありげに聴こえるんですよね。ちなみにこの楽曲は、ハチ氏が過去に発表した楽曲「雨降る街にて風船は悪魔と踊る」のリアレンジとなっています。
8. 眩暈電話 ★★★★
柔らかい音作りと広がりのあるサビ。ハチ氏の楽曲はどれもリズム隊に工夫が施されているイメージがあります。この曲も、カラカラといったスネアの縁を叩く音などが電話を彷彿とさせて、情景を深く描いています。
9. マトリョシカ ★★★★☆
本作のアッパーチューン(3つ目)にして、まあ文句なしのベストトラック。素っ頓狂なリフがタイトルの通りロシアをイメージさせますが、これ、そんなに従来のハチ氏の個性的なメロディーから外れていないんですよね。要するに相性がすごく良いということでしょうか。いずれにせよこれほどまでに個性的で且つ多くの人を引き込むほどのキャッチーさ、ノリの良さ。ぼくとしては名曲と言わざるをえないです。
10. 白痴 ★★★★
なんとも形容し難い1曲ですね。前衛的な印象を持たせつつ、サビでブワッと開放的に、といった構成。サビの開放感をより気持ちよくするために他の部分を徹底的に閉塞しているのが面白い。
11. ワンダーランドと羊の歌 ★★★★
賑やかで楽しいカントリーチックな1曲。間奏後の展開が特に好きですね。合いの手が良い味を出してます。
12. 遊園市街 ★★★
ラストトラックは本人歌唱。悪くないですが正直あまり印象には残りませんでした。雰囲気としてはM8に近い感じ。M8より爽やかで近年のJ-ROCK的。やはり本人がバンプ好きとあって、こういった曲にはモロに影響が感じられますね。メロディーは悪くないですがアレンジにもう一工夫欲しかったところ。
[総評]
派手なアレンジにテンションの高い楽曲の多さから、少なからず若さがにじみ出ているものの、それとは逆に年季すら感じさせる独特な世界観の完成っぷりは一目置くほどのものだと思います。このアルバムの1年半後に発表された米津玄師名義のアルバムと比較しても、アレンジの基軸は変化しているものの、メロディーと歌詞で織り成される根本的な雰囲気はずっしりと土台に座ったままなんら変化していないと感じます。それでいてそれらが人を惹きつける力も凄まじい。アングラ的なストイックさすら感じさせるのにこれほどまでに多くの人気を得ているのは、キャッチーな曲調そのものだけでなくこの安定した基盤の上に成り立っているハチ氏の脳内世界そのものが魅力的だからでしょう。若さ故の弾けっぷりを考えると、ある意味ではこのアルバムがハチ氏の世界の一つの集大成なのかもしれません。これからハチ氏、及び米津玄師氏がどう変化していくのかも気になりますが、もうこれ以上は味わえないであろうハチ氏の「若さ」が溢れたこのアルバムを楽しむのも一興だと思います。名盤。
★★★★
category: VOCALOID
大高丈宙「ヒッキーP・マキシマム・ベスト!」(2012) レビュー
ニコニコ動画にてVOCALOIDを用いた楽曲を発表しているミュージシャン、ヒッキーPこと大高丈宙(おおたかともおき)のメジャー1stアルバム「Eutopia」の特典、1stミニベストアルバム「ヒッキーP・マキシマム・ベスト!」を紹介します。
-- 続きを読む --
というわけでこちらの記事は大高丈宙「Eutopia」(2012) レビューの続きとなります。(色文字クリックで飛びます)
名前の通り、大高氏が今まで上記サイトにて投稿した楽曲の中で特に人気が出た楽曲をまとめたアルバムになります。
しかし仮にもベストアルバムなのにおまけ扱いって、レコード会社含めどこまでもスタンスが一貫してますね・・・。
そんなわけで以下全曲レビュー&総評に移ります。
[全曲レビュー]
1. 残虐ヒーリング ★★☆
大高氏の楽曲の中でもかなり地味な印象。まあ、地味故の良さがあるとは思いますが、あまり好みではないですね。
2. のどが渇く ★★★★☆
ぼくが初めて大高氏を知ったのはこの曲でした。爆発的なインパクトのあるイントロ、ノイズと不協和音が混じり不安になるAメロ、攻撃的で言葉の力強さが印象的なBメロ、そして全てを引っ括めて独自のポップ性でキャッチーな音に昇華させたサビ。いつ聴いてもこの荒削り感がたまらない。ただアルバム収録版は投稿版と比べるとちょっと物足りないかも。
3. 私は演者です ★★★★
大高氏の代表作。彼の曲の中ではかなりシンプルで、音も比較的柔らかく構成もメロとサビがわかりやすい。一般のリスナーに受けるのも納得です。もちろん独特なキャッチーさとフガフガした面白い音色も健在で、ぼくも好きな曲ですね。PVのクオリティも高く、面白い出来なのでこちらも人気の理由の一つとなっています。
4. マッド幸福論 ★★★☆
「Eutopia」収録の「レイジースリーピー」と大体同じ感想。
5. DI ★★★★
大高氏の中でも特に異色の彩を放つバラード。これほど尖ったバラードは聴いたことないですね。根元は普遍的な楽曲ですが、普遍的故に大高氏の隠しきれない鋭さが良い味を出している。名曲です。
[総評]
既発表曲5曲をまとめただけのアルバムなので全体の流れには特に言及しませんが、まあ、予想通りと言った感じの良いアルバムでした。大高氏の楽曲の良さについては「Eutopia」のレビューで散々書きたいことを書いたので、ここでは特に言いません。強いてアルバムについて言及するなら、やはりマスタリングが綺麗すぎて投稿版と比べると些か音が柔らかくなってしまっていた、という点が残念でした。こういうことってよくあるので(神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」はCD版よりデモ版の方が荒削り感があって良い、など)まあ仕方がないと受け止めますが、今後はこの鋭い部分をどうCDに収めるかにも重点を置いてほしいなと感じますね。
★★★★
名前の通り、大高氏が今まで上記サイトにて投稿した楽曲の中で特に人気が出た楽曲をまとめたアルバムになります。
しかし仮にもベストアルバムなのにおまけ扱いって、レコード会社含めどこまでもスタンスが一貫してますね・・・。
そんなわけで以下全曲レビュー&総評に移ります。
[全曲レビュー]
1. 残虐ヒーリング ★★☆
大高氏の楽曲の中でもかなり地味な印象。まあ、地味故の良さがあるとは思いますが、あまり好みではないですね。
2. のどが渇く ★★★★☆
ぼくが初めて大高氏を知ったのはこの曲でした。爆発的なインパクトのあるイントロ、ノイズと不協和音が混じり不安になるAメロ、攻撃的で言葉の力強さが印象的なBメロ、そして全てを引っ括めて独自のポップ性でキャッチーな音に昇華させたサビ。いつ聴いてもこの荒削り感がたまらない。ただアルバム収録版は投稿版と比べるとちょっと物足りないかも。
3. 私は演者です ★★★★
大高氏の代表作。彼の曲の中ではかなりシンプルで、音も比較的柔らかく構成もメロとサビがわかりやすい。一般のリスナーに受けるのも納得です。もちろん独特なキャッチーさとフガフガした面白い音色も健在で、ぼくも好きな曲ですね。PVのクオリティも高く、面白い出来なのでこちらも人気の理由の一つとなっています。
4. マッド幸福論 ★★★☆
「Eutopia」収録の「レイジースリーピー」と大体同じ感想。
5. DI ★★★★
大高氏の中でも特に異色の彩を放つバラード。これほど尖ったバラードは聴いたことないですね。根元は普遍的な楽曲ですが、普遍的故に大高氏の隠しきれない鋭さが良い味を出している。名曲です。
[総評]
既発表曲5曲をまとめただけのアルバムなので全体の流れには特に言及しませんが、まあ、予想通りと言った感じの良いアルバムでした。大高氏の楽曲の良さについては「Eutopia」のレビューで散々書きたいことを書いたので、ここでは特に言いません。強いてアルバムについて言及するなら、やはりマスタリングが綺麗すぎて投稿版と比べると些か音が柔らかくなってしまっていた、という点が残念でした。こういうことってよくあるので(神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」はCD版よりデモ版の方が荒削り感があって良い、など)まあ仕方がないと受け止めますが、今後はこの鋭い部分をどうCDに収めるかにも重点を置いてほしいなと感じますね。
★★★★
category: VOCALOID
大高丈宙「Eutopia」(2012) レビュー
完成したらすぐに放出したくなる性格なのでストックが一向に溜まらない人間、ねむけです。
今回はニコニコ動画にてVOCALOIDを用いた楽曲を発表しているミュージシャン、ヒッキーPこと大高丈宙(おおたかともおき)のメジャー1stアルバム「Eutopia」を紹介します。
-- 続きを読む --
大高氏は2008年始め頃から上記サイト上に楽曲を投稿するようになり、現在ではVOCALOID界隈での、所謂人気路線からは外れているがストイックで奇個性な作品を発表しているアーティストが集う、アンダーグラウンドシーンを代表するミュージシャンの一人として支持を受けています。
作風は主にインダストリアルという、暴力的な機械音や電子音、ノイズなどを楽曲に組み込んだ騒がしいものになっており、かなり好みが別れるであろうと思われます。まあ、それだけ突き抜けているからこそアングラシーンの代表と呼ばれる存在になったのだとは感じますが。ちなみに、使用されているVOCALOIDはほぼ全て鏡音リンですね。
この方の楽曲は基本的に短く、ほとんどが2分を切るほどなので、その分このアルバムは曲数が1ディスクで27曲ととても多いです。
よって、この記事も少々長めになってしまうかと思われますが、ご了承ください。
というわけで全曲レビューと総評に移ります。
[全曲レビュー]
1. 空襲の音 ★★★★
不協和音とノイズの中で虚空に向かって吐き散らかすボーカル。息をつく暇がないほどアグレッシブに展開していきます。時々チラリと覗くメロディアスなフレーズが絶品。日本の有名所だと、神聖かまってちゃん系の作風に近いところがありますが、うーむ、それでもまだまだ遠いですね。唯一無二の路線だと思います。
2. 最初から斜陽 ★★★★
これはもう思春期に聴いたら衝撃でしばらく痺れが取れないであろうくらいの強い圧力を感じます。思春期に出合いたかった。ボーカルの叫び声が凄まじい。人工音声だということを忘れるくらいにビリビリと刺さります。
3. ハイブリッド幼女(第二形態) ★★★★☆
こんなタイトルですが非常にメロディーが良く、アレンジもわかりやすくて聴きやすい。歌詞からも大高氏の苦悩が滲み出ていて、心に来ます。ちょうど中盤からの展開がめっちゃ切なくて好き。ああ、もっとこのグルグルと渦巻く思いを文章にしたいのにできないもどかしさよ・・・。
4. 捨てられた幸福 ★★★★
キャッチーなイントロから譜割りもクソもないボーカルライン、それなのにキャッチーさはずっと変わらない。理屈の通らない素晴らしい感性です。この若さ溢れるネガティブで反社会的な歌詞も、突き抜けていて好きです。言葉選びも面白い。
5. 青黒い穴 ★★★★
比較的耳に優しい1曲。メロディアスさは少ないもののやはり展開が面白い。良い意味で聴いていて苦しい曲。最後の歌詞以降の展開は開放感と束縛感の両方が混ざったような不思議な感覚でした。
6. りゃー ★★
大高氏、Sさん(おそらくレーベルの偉い人)、大丈夫P氏(そのうちこの方のアルバムも紹介します)がガヤガヤしつつ鏡音リンが愛してるーとかなんとか歌ってる、すごく皮肉交じりの1曲。面白すぎる。
7. 雑踏14 ★★★
メロディアス性は薄れているもののM2と大体同じ印象を受けました。この歌詞からサビの「さあ生きろ」というフレーズにつながるのが良いですね。
8. mandara berobero haichatta blues ★★★
このアルバムの中では少し地味な印象ですが、やはり展開の裏切り方が面白いと感じます。一見、一方通行に聴こえますが、実際は物凄い数の引き出しを持っている。
9. 六月病 ★★★★
暴発しそうなストレスをそのまんま楽曲に投影しているから、聴いていると自分もそんな経験を味わっているような思いになって息苦しくなります。そんなこと、並のセンスじゃできない。凄いことですよこれ。
10. くうきのぐんか ★★★
超ハードなブレイクコア的な。いや、他の楽曲も大体そうなので今更すぎる説明ですが。前曲の歌詞がストレートだったのに比べてこちらは抽象的というか、印象派な雰囲気がありますね。残念ながら意味を汲み取ることはできず。
11. フリータイムブランク ★★★☆
1回じゃ処理しきれないほどの情報量の多さ。露骨にポップな部分を出してきたのですが、それがまあ胡散臭いというか、裏のどす黒いものが透けて丸見えなのが面白い。
12. センセーショナルの翌年 ★★★★
4分44秒という長大作(当社比)。MVを見れば一目瞭然ですが、あの東北大震災時の心境を綴った歌ですね。他の楽曲と比べると音のインパクトは少なく、淡々と弾き語りに近い仕上がりになっていますが、なんというか、曲もとい歌詞の雰囲気に重みを乗せるセンスが非常に良いというか、心にグイっとくる感覚があります。友川かずき氏の「生きてるって言ってみろ」を初めて聴いた時と似た感覚ですかね。衝撃も重みもあちらの方が上だとは思いますが、ボカロでこれを表現できるって、めちゃめちゃすごいことだと思いますよ。
13. mtzv ★★★★
こちらも歌詞が思春期に振り切れてていいですね。オケも相変わらず面白い。型にハマらずとも型をよく理解していることが伝わってくる構成なので、安心して聴けるとこありますね。
14. GINGA ★★★☆
インスト。ぐっちゃぐっちゃと。こんな感じで長い作品聴いてみたいですね。
15. アリセにかけたい ★★★★
やりたい放題ですね、やりたい放題。なんでこんなめちゃくちゃでこんなキャッチーになるんだ。むしろこれをキャッチーだと感じる自分の感性の問題なのか。
16. 発火 ★★★
こちらは逆にもうひと展開欲しかった。あと30秒ほど。いや、これだけすき放題展開しておいてもうひと展開ってのもおかしな話ですが。毒されてんのかな。
17. manuscript.org ★★★★
めちゃめちゃポップでセンチメンタルな曲ですね。「まだ叫んでるから」の部分の超キャッチーで切ないメロが特に好きです。
18. 投薬口 ★★★
パンク的でカッコいい曲ですが、ちょっと展開がピンとこなかったですね。
19. 死に体ヤワ ★★★☆
こちらも心情をそのまま殴りつけたような曲。共感とはまた違うものですが、「ああ、その感情をそういう風に表すことができるのか、カッコいいな」と思える魅力がありますね。
20. 魔ゼルな規リン -recognized edit- ★★★★
曲名は日本のアーティスト、魔ゼルな規犬からきてますね。リスペクトソングらしいです。最近ではお互い交流したりと親睦も深まってたり。サビがとても綺麗で印象に残ります。
21. レイジースリーピー ★★★☆
他楽曲と比べてもかなりアバンギャルドで暴力的。これで更にメロディアスさが増幅されればとても好みなんですが。
22. からっぽの椿象 ★★★☆
曲的には耳の休憩になる大人しい曲。ジリジリとした哀愁を感じます。
23. 屠殺ごっこの後で ★★★★
強烈に皮肉が効いていて素敵。まあ、皮肉というよりも事実を隠喩で表現しているといった方が正しいかもしれませんが。言葉選びのセンス、非常に好きですね。
24. レインコート/憧憬/嫌悪/理解 ★★★★
曲のポップセンスは勿論のこと、ボーカルの叫びの表現が素晴らしい。よくぞまあここまで体現することができたもんだと感動します。
25. 敗廊の音 ★★★★☆
曲の長さはおよそ8分。長大作とかそんなレベルじゃないくらい長い。ハイブリッド幼女6人分ですよ。今までの大高氏の作風を覆した傑作。いや、包括したとも言えますね。どちらも感じる。今までの、短い中に詰め込まれた怒涛のプログレッシブ要素が収まるべき枠内に収まり、且つ既存のプログレに嵌らない大高氏の中にしか存在し得ない悲哀が篭っています。8分があっという間の先鋭的ミュージカル。
26. neuter
繋ぎ。時を刻む。
27. 日記、日記、日記、白紙 ★★★★
ラストトラック。心なしかとても明るい歌のように聞こえる。歌詞は変わらず思春期ネガティブど直球ですが、詞に反して生きることへの活力を感じます。喜劇的とすら思えてしまう。とても後味すっきりで、この濃すぎるアルバムに相応しい締めでした。
[総評]
総じて雑音と音楽の境界線スレスレを這うような、というよりも境界を行ったり来たりしているような楽曲群。正直、通して聴くのはかなーり疲れます。しかしこれだけ暴力的だからこそ歌詞の、普通では伝わらない部分まで伝わるような感覚に陥ることができるのだと思います。そして特筆すべきはこのむちゃくちゃなどの楽曲にも確かに含まれているポップ性。音楽性を見るにメルツバウなどのノイズ系アーティストから影響を受けていることは確かなのですが、それ以上にこのポップな部分にとんでもなく密度の高い他アーティストからの影響を感じます。事実、大高氏はその年齢の若さ(確か20代中頃くらい)に見合わないほどの雑食っぷりが散見され(この人がアルバムレビューブログなんか始めた日には、もうそれは大変なことになるであろうと確信するほど)、その全ての楽曲を吸収して裏打ちされたのがこのポップさだと思うと、非常に恐ろしく背筋が凍るレベルです。なぜこの人が大衆に評価されないのか、それはまあ、このぶっ飛んだ展開の楽曲と非常に陰鬱でドロドロした歌詞を好んで聴こうと思える人が少ないからなのでしょう。逆にこの人が大々的に評価されるような時代がくるとすれば、それはもうこの人間社会の終わりを意味していると思います。もちろんこれらのことは全て褒め言葉で、ぼくはこの場でこのアルバムを堂々と名盤として紹介させていただきたいと思います。人工音声を用いてここまで自らの情動を表現し、それを微塵も妥協のない楽曲群として収めた大高氏を評価しないはずがない。今後の活動にも期待したいです。それと、こんな面白い人のCDを全国流通させたVOCALOIDレーベル、GINGAにも注目していきたいですね。
★★★★
今アルバムの購入特典である大高丈宙ミニベストアルバム「ヒッキーP・マキシマム・ベスト!」のレビューはこちら。
作風は主にインダストリアルという、暴力的な機械音や電子音、ノイズなどを楽曲に組み込んだ騒がしいものになっており、かなり好みが別れるであろうと思われます。まあ、それだけ突き抜けているからこそアングラシーンの代表と呼ばれる存在になったのだとは感じますが。ちなみに、使用されているVOCALOIDはほぼ全て鏡音リンですね。
この方の楽曲は基本的に短く、ほとんどが2分を切るほどなので、その分このアルバムは曲数が1ディスクで27曲ととても多いです。
よって、この記事も少々長めになってしまうかと思われますが、ご了承ください。
というわけで全曲レビューと総評に移ります。
[全曲レビュー]
1. 空襲の音 ★★★★
不協和音とノイズの中で虚空に向かって吐き散らかすボーカル。息をつく暇がないほどアグレッシブに展開していきます。時々チラリと覗くメロディアスなフレーズが絶品。日本の有名所だと、神聖かまってちゃん系の作風に近いところがありますが、うーむ、それでもまだまだ遠いですね。唯一無二の路線だと思います。
2. 最初から斜陽 ★★★★
これはもう思春期に聴いたら衝撃でしばらく痺れが取れないであろうくらいの強い圧力を感じます。思春期に出合いたかった。ボーカルの叫び声が凄まじい。人工音声だということを忘れるくらいにビリビリと刺さります。
3. ハイブリッド幼女(第二形態) ★★★★☆
こんなタイトルですが非常にメロディーが良く、アレンジもわかりやすくて聴きやすい。歌詞からも大高氏の苦悩が滲み出ていて、心に来ます。ちょうど中盤からの展開がめっちゃ切なくて好き。ああ、もっとこのグルグルと渦巻く思いを文章にしたいのにできないもどかしさよ・・・。
4. 捨てられた幸福 ★★★★
キャッチーなイントロから譜割りもクソもないボーカルライン、それなのにキャッチーさはずっと変わらない。理屈の通らない素晴らしい感性です。この若さ溢れるネガティブで反社会的な歌詞も、突き抜けていて好きです。言葉選びも面白い。
5. 青黒い穴 ★★★★
比較的耳に優しい1曲。メロディアスさは少ないもののやはり展開が面白い。良い意味で聴いていて苦しい曲。最後の歌詞以降の展開は開放感と束縛感の両方が混ざったような不思議な感覚でした。
6. りゃー ★★
大高氏、Sさん(おそらくレーベルの偉い人)、大丈夫P氏(そのうちこの方のアルバムも紹介します)がガヤガヤしつつ鏡音リンが愛してるーとかなんとか歌ってる、すごく皮肉交じりの1曲。面白すぎる。
7. 雑踏14 ★★★
メロディアス性は薄れているもののM2と大体同じ印象を受けました。この歌詞からサビの「さあ生きろ」というフレーズにつながるのが良いですね。
8. mandara berobero haichatta blues ★★★
このアルバムの中では少し地味な印象ですが、やはり展開の裏切り方が面白いと感じます。一見、一方通行に聴こえますが、実際は物凄い数の引き出しを持っている。
9. 六月病 ★★★★
暴発しそうなストレスをそのまんま楽曲に投影しているから、聴いていると自分もそんな経験を味わっているような思いになって息苦しくなります。そんなこと、並のセンスじゃできない。凄いことですよこれ。
10. くうきのぐんか ★★★
超ハードなブレイクコア的な。いや、他の楽曲も大体そうなので今更すぎる説明ですが。前曲の歌詞がストレートだったのに比べてこちらは抽象的というか、印象派な雰囲気がありますね。残念ながら意味を汲み取ることはできず。
11. フリータイムブランク ★★★☆
1回じゃ処理しきれないほどの情報量の多さ。露骨にポップな部分を出してきたのですが、それがまあ胡散臭いというか、裏のどす黒いものが透けて丸見えなのが面白い。
12. センセーショナルの翌年 ★★★★
4分44秒という長大作(当社比)。MVを見れば一目瞭然ですが、あの東北大震災時の心境を綴った歌ですね。他の楽曲と比べると音のインパクトは少なく、淡々と弾き語りに近い仕上がりになっていますが、なんというか、曲もとい歌詞の雰囲気に重みを乗せるセンスが非常に良いというか、心にグイっとくる感覚があります。友川かずき氏の「生きてるって言ってみろ」を初めて聴いた時と似た感覚ですかね。衝撃も重みもあちらの方が上だとは思いますが、ボカロでこれを表現できるって、めちゃめちゃすごいことだと思いますよ。
13. mtzv ★★★★
こちらも歌詞が思春期に振り切れてていいですね。オケも相変わらず面白い。型にハマらずとも型をよく理解していることが伝わってくる構成なので、安心して聴けるとこありますね。
14. GINGA ★★★☆
インスト。ぐっちゃぐっちゃと。こんな感じで長い作品聴いてみたいですね。
15. アリセにかけたい ★★★★
やりたい放題ですね、やりたい放題。なんでこんなめちゃくちゃでこんなキャッチーになるんだ。むしろこれをキャッチーだと感じる自分の感性の問題なのか。
16. 発火 ★★★
こちらは逆にもうひと展開欲しかった。あと30秒ほど。いや、これだけすき放題展開しておいてもうひと展開ってのもおかしな話ですが。毒されてんのかな。
17. manuscript.org ★★★★
めちゃめちゃポップでセンチメンタルな曲ですね。「まだ叫んでるから」の部分の超キャッチーで切ないメロが特に好きです。
18. 投薬口 ★★★
パンク的でカッコいい曲ですが、ちょっと展開がピンとこなかったですね。
19. 死に体ヤワ ★★★☆
こちらも心情をそのまま殴りつけたような曲。共感とはまた違うものですが、「ああ、その感情をそういう風に表すことができるのか、カッコいいな」と思える魅力がありますね。
20. 魔ゼルな規リン -recognized edit- ★★★★
曲名は日本のアーティスト、魔ゼルな規犬からきてますね。リスペクトソングらしいです。最近ではお互い交流したりと親睦も深まってたり。サビがとても綺麗で印象に残ります。
21. レイジースリーピー ★★★☆
他楽曲と比べてもかなりアバンギャルドで暴力的。これで更にメロディアスさが増幅されればとても好みなんですが。
22. からっぽの椿象 ★★★☆
曲的には耳の休憩になる大人しい曲。ジリジリとした哀愁を感じます。
23. 屠殺ごっこの後で ★★★★
強烈に皮肉が効いていて素敵。まあ、皮肉というよりも事実を隠喩で表現しているといった方が正しいかもしれませんが。言葉選びのセンス、非常に好きですね。
24. レインコート/憧憬/嫌悪/理解 ★★★★
曲のポップセンスは勿論のこと、ボーカルの叫びの表現が素晴らしい。よくぞまあここまで体現することができたもんだと感動します。
25. 敗廊の音 ★★★★☆
曲の長さはおよそ8分。長大作とかそんなレベルじゃないくらい長い。ハイブリッド幼女6人分ですよ。今までの大高氏の作風を覆した傑作。いや、包括したとも言えますね。どちらも感じる。今までの、短い中に詰め込まれた怒涛のプログレッシブ要素が収まるべき枠内に収まり、且つ既存のプログレに嵌らない大高氏の中にしか存在し得ない悲哀が篭っています。8分があっという間の先鋭的ミュージカル。
26. neuter
繋ぎ。時を刻む。
27. 日記、日記、日記、白紙 ★★★★
ラストトラック。心なしかとても明るい歌のように聞こえる。歌詞は変わらず思春期ネガティブど直球ですが、詞に反して生きることへの活力を感じます。喜劇的とすら思えてしまう。とても後味すっきりで、この濃すぎるアルバムに相応しい締めでした。
[総評]
総じて雑音と音楽の境界線スレスレを這うような、というよりも境界を行ったり来たりしているような楽曲群。正直、通して聴くのはかなーり疲れます。しかしこれだけ暴力的だからこそ歌詞の、普通では伝わらない部分まで伝わるような感覚に陥ることができるのだと思います。そして特筆すべきはこのむちゃくちゃなどの楽曲にも確かに含まれているポップ性。音楽性を見るにメルツバウなどのノイズ系アーティストから影響を受けていることは確かなのですが、それ以上にこのポップな部分にとんでもなく密度の高い他アーティストからの影響を感じます。事実、大高氏はその年齢の若さ(確か20代中頃くらい)に見合わないほどの雑食っぷりが散見され(この人がアルバムレビューブログなんか始めた日には、もうそれは大変なことになるであろうと確信するほど)、その全ての楽曲を吸収して裏打ちされたのがこのポップさだと思うと、非常に恐ろしく背筋が凍るレベルです。なぜこの人が大衆に評価されないのか、それはまあ、このぶっ飛んだ展開の楽曲と非常に陰鬱でドロドロした歌詞を好んで聴こうと思える人が少ないからなのでしょう。逆にこの人が大々的に評価されるような時代がくるとすれば、それはもうこの人間社会の終わりを意味していると思います。もちろんこれらのことは全て褒め言葉で、ぼくはこの場でこのアルバムを堂々と名盤として紹介させていただきたいと思います。人工音声を用いてここまで自らの情動を表現し、それを微塵も妥協のない楽曲群として収めた大高氏を評価しないはずがない。今後の活動にも期待したいです。それと、こんな面白い人のCDを全国流通させたVOCALOIDレーベル、GINGAにも注目していきたいですね。
★★★★
今アルバムの購入特典である大高丈宙ミニベストアルバム「ヒッキーP・マキシマム・ベスト!」のレビューはこちら。
category: VOCALOID
ねこぼーろ「Dot.」(2013) レビュー
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ねこぼーろ氏は2009年頃から上記動画サイトにて楽曲を発表しているアマチュアのミュージシャンで、作風はエレクトロニカを基礎に、ロックやヒップホップなどの要素を織り交ぜたジャンルの型に嵌らない個性のあるものとなっています。
そんなわけで以下全曲レビューと総評。
[全曲レビュー]
1. Quantum-dot ★★★
インスト。ポツポツと茂みに雨の水滴が落ちる情景と、雲が晴れて暖かい日差しが照らす情景、天気の移り変わりを予感させる楽曲だと感じました。ただ少し淡々としているように思えたのでこの評価。
2. 自傷無色 ★★★★☆
どうしようもなく陰鬱でネガティブな歌詞と、聴き惚れてしまうほど綺麗な旋律が織り成す名曲。メリハリやCメロからの展開なども素晴らしいです。
3. ライフゲーム ★★★
こちらもとてもネガティブな歌詞。淡々と、死のうとしている自分を肯定させようとしている曲で、空恐ろしさを感じますが、曲としては少し淡々とし過ぎていて、何度も聴きたい曲ではないな、と感じたのでこの評価。
4. rain ★★★☆
インスト。タイトルの通り、雨の中で電子ピアノの音がしずしずと流れている楽曲。子供の頃の思い出をふと記憶の引き出しから取り出してくれる、優しくて淡い良い作品です。
5. 朝焼けと窓 ★★★
こちらもアンビエント的な静けさのある楽曲。とても豊かな広がりがありますが、欲を言えばもうひと捻り欲しかったですかね。
6. エイプリループ ★★★
こちらは正統派J-ROCKに独自のエレクトロなフレーバーをペーストした感じの楽曲。あまりメロディが好みではなかったのでこの評価。
7. さよなら伝言ラブゲーム ★★☆
ラストトラック。メリハリが薄くのっぺりした印象があって、メロディーの良さが薄れてしまっているのが残念。
[総評]
楽器音を逆再生したり、アタックを小さくした時の、あの吸い取られるような不思議な感覚を活かした個性のある作品群が面白みがあって素敵でした。特にそれがピタリとハマり、且つ構成や詞、メロディーも頭一つ抜けていたM2は自分の中に残る名曲だと感じます。そしてもう一つこのアルバムの特徴として、雨や晴れといった天候をイメージした楽曲が、まさにイメージ通りにそれを彷彿とさせて嵌っていたという印象を持ちました。特に雨を彷彿とさせたM1やM4といったインストの楽曲は、このアルバムの要とも言える崇高な役割を担っていたと感じます。一方で、「雨」と「陰鬱」が主なコンセプトとなっていた今アルバムのラストトラックはあまりこのアルバムに合わないな、とも感じました。淡々とした感じは全体から伝わってくるのですが、いまいち軸にブレを感じて、そこが残念ですね。とても良いセンスをお持ちの方なので、これからの活動を見守っていきたいです。
★★★
そんなわけで以下全曲レビューと総評。
[全曲レビュー]
1. Quantum-dot ★★★
インスト。ポツポツと茂みに雨の水滴が落ちる情景と、雲が晴れて暖かい日差しが照らす情景、天気の移り変わりを予感させる楽曲だと感じました。ただ少し淡々としているように思えたのでこの評価。
2. 自傷無色 ★★★★☆
どうしようもなく陰鬱でネガティブな歌詞と、聴き惚れてしまうほど綺麗な旋律が織り成す名曲。メリハリやCメロからの展開なども素晴らしいです。
3. ライフゲーム ★★★
こちらもとてもネガティブな歌詞。淡々と、死のうとしている自分を肯定させようとしている曲で、空恐ろしさを感じますが、曲としては少し淡々とし過ぎていて、何度も聴きたい曲ではないな、と感じたのでこの評価。
4. rain ★★★☆
インスト。タイトルの通り、雨の中で電子ピアノの音がしずしずと流れている楽曲。子供の頃の思い出をふと記憶の引き出しから取り出してくれる、優しくて淡い良い作品です。
5. 朝焼けと窓 ★★★
こちらもアンビエント的な静けさのある楽曲。とても豊かな広がりがありますが、欲を言えばもうひと捻り欲しかったですかね。
6. エイプリループ ★★★
こちらは正統派J-ROCKに独自のエレクトロなフレーバーをペーストした感じの楽曲。あまりメロディが好みではなかったのでこの評価。
7. さよなら伝言ラブゲーム ★★☆
ラストトラック。メリハリが薄くのっぺりした印象があって、メロディーの良さが薄れてしまっているのが残念。
[総評]
楽器音を逆再生したり、アタックを小さくした時の、あの吸い取られるような不思議な感覚を活かした個性のある作品群が面白みがあって素敵でした。特にそれがピタリとハマり、且つ構成や詞、メロディーも頭一つ抜けていたM2は自分の中に残る名曲だと感じます。そしてもう一つこのアルバムの特徴として、雨や晴れといった天候をイメージした楽曲が、まさにイメージ通りにそれを彷彿とさせて嵌っていたという印象を持ちました。特に雨を彷彿とさせたM1やM4といったインストの楽曲は、このアルバムの要とも言える崇高な役割を担っていたと感じます。一方で、「雨」と「陰鬱」が主なコンセプトとなっていた今アルバムのラストトラックはあまりこのアルバムに合わないな、とも感じました。淡々とした感じは全体から伝わってくるのですが、いまいち軸にブレを感じて、そこが残念ですね。とても良いセンスをお持ちの方なので、これからの活動を見守っていきたいです。
★★★
category: VOCALOID
みきとP「僕は初音ミクとキスをした」(2013) レビュー
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みきとP氏は2010年頃から楽曲の投稿を始めたボカロPで、ジワジワと人気を上げていき、今では爆発的なヒット曲を抱えたり、声優に楽曲提供をしたりなど、どんどんニコニコ動画外の表の舞台へ名を上げつつある期待のセミプロ作曲家です。
楽曲の特徴としては、心揺さぶる切ないロックサウンド(通称セツナ系ロック)が得意とされている、とこのアルバムの帯に書いてあったので、そこにも注目ですね。
というわけで以下全曲レビューと総評です。
[全曲レビュー]
1. 僕は初音ミクとキスをした ★★★
表題曲。みきとP氏が得意とする切ないロックサウンド。悲哀のあるメロディーと声を抑えて囁くようなミクのボーカルが良く合っています。歌詞は、うんうんと共感できるものの、あまり魅力は感じませんでした。
2. 心臓デモクラシー ★★★★
こちらもセツナ系ロック。サビのメロが惜しいとは感じましたが、緩急があって盛り上がりもよく、シンセのリードが良い味を出していて好きですね。
3. 夕暮れツイッター ★★★☆
こちらは爽やかなロックサウンド。イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、歌詞、みな「良い」のですが、「とても良い」と感じる部分がなく、無難に収まってる印象があって惜しいと感じます。
4. クノイチでも恋がしたい ★★★★
一転して、アニソン的でテンションが高い、愉快な1曲。サビの転調が何度聴いてもあまり好かないですが、なんというか、とても中毒性が高いです。Bメロの落とし方や、イントロ・間奏のメロなど、何度も聴きたくなる要素が多く、つい聴いてしまいますね。こういう遊び心のセンスが良い曲は好きです。あとMVが可愛いです。
5. 世田谷ナイトサファリ ★★★★
シャレオツなロックサウンド。妖艶なサビの進行がとても好きです。離散した3人の家族の心情を描いた、何とも言えぬ哀愁のある歌詞も良いですね。
6. 東京駅 ★★
M1M2と同系統のセツナ系ロック。ゆったりと流し聴きする分には良いですが、特筆するところはなく、詞にも曲にも心揺さぶられなかったためこの評価。
7. 夕立のりぼん ★★☆
こちらも同系統。曲の緩急に乏しくメロに飽きてしまうためこの評価。サビが大人しすぎかなーと感じました。
8. 絆創膏 ★★★
正統派ラブソング。こういう風に自分も思ってもらいたい青春でしたね。M6M7と比べると緩急もあり良いメロディーラインですが、やはり無難な印象が強いです。
9. 非公開日誌 ★★★★
こちらは女の子の心情を航海に見立てたラブソング。とても爽やかで気持ちのいいメロディーラインです。少し暗く複雑で切ない葛藤を、コメディ色のある楽しい音楽に乗せていて、前向きな気持ちを汲み取ることができますね。サビの微妙な音程の変化やBメロの落とし方が逸品。あとMVが可愛いです。(2回目)
10. いーあるふぁんくらぶ ★★★★☆
現時点でのみきとP氏の代表曲。知名度も圧倒的で、有線でも多く流れているので、ボカロほとんど知らんけどこの曲なら知ってる!という人も多いのではないでしょうか。曲としてもそのノリの良さやキャッチーさなど、様々な部分で他の楽曲と比べても頭一つ抜けています。特筆すべきは、出だしのドラの音などを除けば中国の楽器はほとんど使われていないのに、歌詞を意識せずとも曲全体が中国を連想させるようなものになっているというところ。しかも、「中国の曲」ではなくちゃんと「中国を連想させる日本の曲」という枠組みに収まっているのが秀逸だと思います。YMOを思い出しますね。あとMVがやっぱり可愛いです。
11. うぇんずでー・ぶるー ★★★☆
脱力系ロック。ボーカルも楽曲もめっちゃ雰囲気が出てて良いですね。「やるぞ!」と立ち上がってもすぐふにゃっと座り込んじゃう感じがにじみ出てます。ボーカルの調整が細かく、ほどよく人間的で面白いです。ただサビのメロが惜しいと感じたのでこの評価。
12. 刹那プラス ★★☆
セツナ系ロック。うーむ、単純にメロディが好みじゃないですね。こればかりは仕方ない。あとはM7と同じく抑揚が少ないので、途中で飽きてしまいますね。そんなわけでこの評価です。
13. サリシノハラ ★★★☆
イントロの掴みはアルバムで一番ですね。曲もメリハリがあって良い感じなのですが、歌メロが微妙に好みからズレてるというか、面白みがないと感じました。もう完全に好みの問題ですねこれ。あとこれは余談ですが、この曲はタイトルを並べ替えると某アイドルのとあるメンバーの名前になっていて、歌詞もその人のことを歌っているのではないかという噂がありますが、ぼくもそう思います。いや、だからどうしたって話ですけれどもね。
14. SECRET DVD ★★★
悪くないですが、ちょっと展開が少ないなーと感じました。展開というか、細かなアレンジの変化やブレイクなどはテクニカルで良いと思いますが、メロがくどい。サビのメロを使いまわし過ぎかなと感じました。あとはAメロ以外終始ギターが左右でうるさいので、そこも惜しいなと思う点ですね。ウダウダ言いましたが、でもまあ、普通にカッコいい曲です。
15. サラバーにゃカウダ ★★☆
カントリー風なロック。歌詞が優しくて好きですね。曲としてはメリハリがなくすごく平坦なのでこの評価ですが、アルバム曲としては一息つける立ち位置なので良か良かです。
16. ガリベン広瀬の勝利 ★★
爽やかな感じの普通のロック。いや、ロックというよりはポップスの方が良いかも。曲は可もなく不可もなく。女の子2人の友情モノ的なストーリー性のある歌詞ですね。ただ、あくまで漫画、小説好きとして言わせてもらうと、登場キャラの掘り下げが中途半端で感情移入もへったくれもないなと思いました。メインである広瀬というキャラをAメロBメロを使ってとことん掘り下げるなり、逆にほとんど掘り下げずに聴く人の環境にお任せするなりして、キャラに重きを置くかストーリーに重きを置くかすればもっと良くなるかなーと。そういった意味では、同じストーリー性のある歌詞だけどストーリーを二の次に、キャラへ重きを置いたM10は歌詞も逸品だったなーと感じます。
17. 小夜子 ★★★★
セツナ系ロック。今アルバムの同種の楽曲の中では、M2と僅差ですが一番好きな曲です。M5を含めると2番目ですが。メロディーは言わずもがな、どうしようもなく重く苦しい心情を描いた歌詞が素敵です。最初から最後までどうしようもなくネガティブですが、それだけ振り切れているからこそ味わえる美しさを感じますね。ただ気になるのが、なんでラスサビだけ関西弁が出てきたのだろう。
18. kiss ★★★
ラスト。同じくボカロPのkeeno氏とのコラボ曲。keeno氏はバラードを得意とするアマチュア作曲家で、代表曲に「glow」などがあります。うーむ、良い歌詞で、歌メロも悪くなく、ギターとシンセの音も哀愁があって素敵です。ただ終始曲の密度が厚くて、メリハリが少なく聞こえるのと、聴き疲れが起きますね。ぼくはもう病的なメリハリ野郎なので、メリハリが少ない曲はよほど他が良いものでないと評価をガクンと落としてしまう傾向があります。なのでこの曲は他がなかなか良かったですがこの評価です。
[総評]
セツナ系ロックに定評があるとされるみきとP氏ですが、アルバムを聴き込んだ感想としては、切ない曲より明るい曲のセンスの方が好きだなと感じました。もちろん切ない曲でも良いと感じた曲はありましたが、打率でいうと圧倒的に明るい曲の方が良かったですね。もちろん切ない曲は全体のメロディーの雰囲気だけでなく歌詞にも個性があるので、そこにドンピシャで共感できる人にはとても良いアルバムだと思います。なんにせよ、本職に劣らぬ編曲技術を持ち、引き出しの幅が広く、遊び心のセンスにも溢れているので、これからに期待していきたいなと思います。
★★★
楽曲の特徴としては、心揺さぶる切ないロックサウンド(通称セツナ系ロック)が得意とされている、とこのアルバムの帯に書いてあったので、そこにも注目ですね。
というわけで以下全曲レビューと総評です。
[全曲レビュー]
1. 僕は初音ミクとキスをした ★★★
表題曲。みきとP氏が得意とする切ないロックサウンド。悲哀のあるメロディーと声を抑えて囁くようなミクのボーカルが良く合っています。歌詞は、うんうんと共感できるものの、あまり魅力は感じませんでした。
2. 心臓デモクラシー ★★★★
こちらもセツナ系ロック。サビのメロが惜しいとは感じましたが、緩急があって盛り上がりもよく、シンセのリードが良い味を出していて好きですね。
3. 夕暮れツイッター ★★★☆
こちらは爽やかなロックサウンド。イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、歌詞、みな「良い」のですが、「とても良い」と感じる部分がなく、無難に収まってる印象があって惜しいと感じます。
4. クノイチでも恋がしたい ★★★★
一転して、アニソン的でテンションが高い、愉快な1曲。サビの転調が何度聴いてもあまり好かないですが、なんというか、とても中毒性が高いです。Bメロの落とし方や、イントロ・間奏のメロなど、何度も聴きたくなる要素が多く、つい聴いてしまいますね。こういう遊び心のセンスが良い曲は好きです。あとMVが可愛いです。
5. 世田谷ナイトサファリ ★★★★
シャレオツなロックサウンド。妖艶なサビの進行がとても好きです。離散した3人の家族の心情を描いた、何とも言えぬ哀愁のある歌詞も良いですね。
6. 東京駅 ★★
M1M2と同系統のセツナ系ロック。ゆったりと流し聴きする分には良いですが、特筆するところはなく、詞にも曲にも心揺さぶられなかったためこの評価。
7. 夕立のりぼん ★★☆
こちらも同系統。曲の緩急に乏しくメロに飽きてしまうためこの評価。サビが大人しすぎかなーと感じました。
8. 絆創膏 ★★★
正統派ラブソング。こういう風に自分も思ってもらいたい青春でしたね。M6M7と比べると緩急もあり良いメロディーラインですが、やはり無難な印象が強いです。
9. 非公開日誌 ★★★★
こちらは女の子の心情を航海に見立てたラブソング。とても爽やかで気持ちのいいメロディーラインです。少し暗く複雑で切ない葛藤を、コメディ色のある楽しい音楽に乗せていて、前向きな気持ちを汲み取ることができますね。サビの微妙な音程の変化やBメロの落とし方が逸品。あとMVが可愛いです。(2回目)
10. いーあるふぁんくらぶ ★★★★☆
現時点でのみきとP氏の代表曲。知名度も圧倒的で、有線でも多く流れているので、ボカロほとんど知らんけどこの曲なら知ってる!という人も多いのではないでしょうか。曲としてもそのノリの良さやキャッチーさなど、様々な部分で他の楽曲と比べても頭一つ抜けています。特筆すべきは、出だしのドラの音などを除けば中国の楽器はほとんど使われていないのに、歌詞を意識せずとも曲全体が中国を連想させるようなものになっているというところ。しかも、「中国の曲」ではなくちゃんと「中国を連想させる日本の曲」という枠組みに収まっているのが秀逸だと思います。YMOを思い出しますね。あとMVがやっぱり可愛いです。
11. うぇんずでー・ぶるー ★★★☆
脱力系ロック。ボーカルも楽曲もめっちゃ雰囲気が出てて良いですね。「やるぞ!」と立ち上がってもすぐふにゃっと座り込んじゃう感じがにじみ出てます。ボーカルの調整が細かく、ほどよく人間的で面白いです。ただサビのメロが惜しいと感じたのでこの評価。
12. 刹那プラス ★★☆
セツナ系ロック。うーむ、単純にメロディが好みじゃないですね。こればかりは仕方ない。あとはM7と同じく抑揚が少ないので、途中で飽きてしまいますね。そんなわけでこの評価です。
13. サリシノハラ ★★★☆
イントロの掴みはアルバムで一番ですね。曲もメリハリがあって良い感じなのですが、歌メロが微妙に好みからズレてるというか、面白みがないと感じました。もう完全に好みの問題ですねこれ。あとこれは余談ですが、この曲はタイトルを並べ替えると某アイドルのとあるメンバーの名前になっていて、歌詞もその人のことを歌っているのではないかという噂がありますが、ぼくもそう思います。いや、だからどうしたって話ですけれどもね。
14. SECRET DVD ★★★
悪くないですが、ちょっと展開が少ないなーと感じました。展開というか、細かなアレンジの変化やブレイクなどはテクニカルで良いと思いますが、メロがくどい。サビのメロを使いまわし過ぎかなと感じました。あとはAメロ以外終始ギターが左右でうるさいので、そこも惜しいなと思う点ですね。ウダウダ言いましたが、でもまあ、普通にカッコいい曲です。
15. サラバーにゃカウダ ★★☆
カントリー風なロック。歌詞が優しくて好きですね。曲としてはメリハリがなくすごく平坦なのでこの評価ですが、アルバム曲としては一息つける立ち位置なので良か良かです。
16. ガリベン広瀬の勝利 ★★
爽やかな感じの普通のロック。いや、ロックというよりはポップスの方が良いかも。曲は可もなく不可もなく。女の子2人の友情モノ的なストーリー性のある歌詞ですね。ただ、あくまで漫画、小説好きとして言わせてもらうと、登場キャラの掘り下げが中途半端で感情移入もへったくれもないなと思いました。メインである広瀬というキャラをAメロBメロを使ってとことん掘り下げるなり、逆にほとんど掘り下げずに聴く人の環境にお任せするなりして、キャラに重きを置くかストーリーに重きを置くかすればもっと良くなるかなーと。そういった意味では、同じストーリー性のある歌詞だけどストーリーを二の次に、キャラへ重きを置いたM10は歌詞も逸品だったなーと感じます。
17. 小夜子 ★★★★
セツナ系ロック。今アルバムの同種の楽曲の中では、M2と僅差ですが一番好きな曲です。M5を含めると2番目ですが。メロディーは言わずもがな、どうしようもなく重く苦しい心情を描いた歌詞が素敵です。最初から最後までどうしようもなくネガティブですが、それだけ振り切れているからこそ味わえる美しさを感じますね。ただ気になるのが、なんでラスサビだけ関西弁が出てきたのだろう。
18. kiss ★★★
ラスト。同じくボカロPのkeeno氏とのコラボ曲。keeno氏はバラードを得意とするアマチュア作曲家で、代表曲に「glow」などがあります。うーむ、良い歌詞で、歌メロも悪くなく、ギターとシンセの音も哀愁があって素敵です。ただ終始曲の密度が厚くて、メリハリが少なく聞こえるのと、聴き疲れが起きますね。ぼくはもう病的なメリハリ野郎なので、メリハリが少ない曲はよほど他が良いものでないと評価をガクンと落としてしまう傾向があります。なのでこの曲は他がなかなか良かったですがこの評価です。
[総評]
セツナ系ロックに定評があるとされるみきとP氏ですが、アルバムを聴き込んだ感想としては、切ない曲より明るい曲のセンスの方が好きだなと感じました。もちろん切ない曲でも良いと感じた曲はありましたが、打率でいうと圧倒的に明るい曲の方が良かったですね。もちろん切ない曲は全体のメロディーの雰囲気だけでなく歌詞にも個性があるので、そこにドンピシャで共感できる人にはとても良いアルバムだと思います。なんにせよ、本職に劣らぬ編曲技術を持ち、引き出しの幅が広く、遊び心のセンスにも溢れているので、これからに期待していきたいなと思います。
★★★
category: VOCALOID
きくお「きくおミク」(2011) レビュー
私生活が忙しくなってきたので、今回から5日に1更新を目標にしていきます。よろしくお願いします。
さて今回は、ニコニコ動画にてVOCALOIDを用いた楽曲を発表し、本業でもフリーのサウンドクリエイターとしても活動しているきくお氏の1stボカロオリジナルアルバム「きくおミク」を紹介します。
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きくお氏の作る楽曲は幅広く、電波系からアンビエントまで依頼さえあればなんでも作る、まさしくプロのサウンドクリエイターなのですが、一方で趣味として作る楽曲、主にVOCALOIDを用いた曲は一貫して幻想狂気的で、ヘヴィーでメルヘンチックな独自の世界観を構築していて、そのクオリティも侮れません。音楽業界の人間にも一目置かれているとかなんとか。
そんなVOCALOID界の鬼才、きくお氏の1stアルバムをレビューしたいと思います。
というわけで以下全曲レビュー&総評。
[全曲レビュー]
1. 私を食べて ★★★
43秒のプロローグ。みんなのうたでありそうな童謡的でメルヘンな感じの曲ですね。ベースラインが素敵。
2. 僕をそんな目で見ないで ★★★★
おもちゃ箱の中に飛び込んだような衝撃作。PVと共に見てトラウマになった人もいるのではないでしょうか。可愛らしいのに不安定で恐ろしくなるメロディーで、しかし美しい。頭に残る1曲です。
3. 天国へ行こう ★★★★
どうしようもなくポップで、それこそ天国へ召されるような幸福感を味わえる曲。ベースが、おもちゃの兵隊のような雰囲気で特に好きですね。
4. 悪いことはしちゃいけないよ ★★★★☆
たま、もしくは倉橋ヨエコを彷彿とさせるダークで意味深な歌詞。このセンス、とても好みです。非常に可愛らしく毒のある曲も中毒性が高く心地良いです。Aメロが特に好き。
5. 昇る月、沈む太陽 ★★★☆
オケはピアノ一本という非常にシンプルな構成。しかし他の楽曲に負けず劣らず個性的でポップな1曲です。これは仕方のないことだけれども、綺麗で複雑な旋律なのにピアノの打ち込み臭がまだ強いのが残念。最近のきくお氏の曲では、結構その点が改善されてきているところもありますが、やはりピアノはよほど打ち込みじゃなきゃできない曲でもない限り生で録音したものが聴きたいですね。
6. 月の妖怪 ★★★
とてもジャジーで、テクニカルなオケが展開する1曲。とても個性的な曲ですが、全体的に緩急に乏しいので少し冗長に聴こえてしまうのが個人的に残念。かといって、ジャズとしてゆったりと聴くには少し騒がしいと感じるので、この評価です。
7. 星くずの掃除婦 ★★★★
歌詞に聴き入る名曲。ジャンルはバラードでいいかな?きくお氏は総合的に特異な才能の光る方で、それは曲においても歌詞、メロディ、コード、アレンジ全てにおいて言えることですが、やはり非凡な方の作るバラードは素晴らしいですね。子供の頃の、初めて読む絵本を捲っていたあの不思議な感覚を思い出します。
8. 70億人の頭の上に風船を ★★★★
とてもストレートでメッセージ性の強い歌。琴楽器のチャカチャカした音が印象的で可愛らしく、多くの音を使ったオーケストレーションで曲の緩急も強く、メロディーも頭に残ります。壮大、とはまた違いますが、広がりのある1曲。
9. はじまりとおわりのうた ★★★☆
出だしで民族調の音楽かと思いきや、バッキバキのトランス。プログレッシブの要素も入ってますね。とてもカッコいいです。ただあまりミクの声が合ってないように感じたのでこの評価。
10. InfiniteDreamer ★★★☆
テクノ成分の強いダンスミュージック。こういう曲も作れるのか、と改めて曲幅の広さに驚かされます。テクニカルなベースのうねりが超イケてますね。ただちょっとボーカルのメロが単調に感じました。
11. 物をぱらぱら壊す ★★★★☆
超怪作。一体どこからこんな凄まじい曲が生まれてきたのか。幻想的で壮大なオーケストラ、そして子供の悪戯のように愉快で不安定で狂気染みていて、寂しさを感じる歌詞。どこをとってもヤバい曲。最初聴いた時は戦慄しました。
12. ボクを忘れた空想紀行 ★★★
ラストトラック。この曲はきくお氏のボカロデビュー作でもあります。4つ打ちのシンプルなポップソング。きくお氏の独特な世界観はこの曲の時点で完成されていると自分は感じますが、アルバム全体で見ると無難であまり印象に残らない楽曲だったのでこの評価。
[総評]
ぶっちゃけると、きくお氏はぼくの中で既に天才の部類に入っています。こんなぶっ飛んでいて、ぼくを含め多くの人を惹きつける独自の世界観を持っている人が凡才なはずがありません。あまり人を天才と呼ぶのは好きではありませんが、彼は紛れもなく非凡なクリエイターだと思います。さて、今回のアルバムについてですが、主にM11などでその非凡さを遺憾無く発揮しているのが見て取れますが、まだどこか商業的というか、一般受けを重視した非個性的で面白みのない要素が残っているように感じられました。彼ならまだ、もっともっと面白いものが作れる、そう思います。というか実際、2nd3rdとアルバムを出すに連れてどんどんストイックで奇個性に素敵になっていくのですが、それはまたの機会に、順を追って紹介したいと思います。
★★★☆
そんなVOCALOID界の鬼才、きくお氏の1stアルバムをレビューしたいと思います。
というわけで以下全曲レビュー&総評。
[全曲レビュー]
1. 私を食べて ★★★
43秒のプロローグ。みんなのうたでありそうな童謡的でメルヘンな感じの曲ですね。ベースラインが素敵。
2. 僕をそんな目で見ないで ★★★★
おもちゃ箱の中に飛び込んだような衝撃作。PVと共に見てトラウマになった人もいるのではないでしょうか。可愛らしいのに不安定で恐ろしくなるメロディーで、しかし美しい。頭に残る1曲です。
3. 天国へ行こう ★★★★
どうしようもなくポップで、それこそ天国へ召されるような幸福感を味わえる曲。ベースが、おもちゃの兵隊のような雰囲気で特に好きですね。
4. 悪いことはしちゃいけないよ ★★★★☆
たま、もしくは倉橋ヨエコを彷彿とさせるダークで意味深な歌詞。このセンス、とても好みです。非常に可愛らしく毒のある曲も中毒性が高く心地良いです。Aメロが特に好き。
5. 昇る月、沈む太陽 ★★★☆
オケはピアノ一本という非常にシンプルな構成。しかし他の楽曲に負けず劣らず個性的でポップな1曲です。これは仕方のないことだけれども、綺麗で複雑な旋律なのにピアノの打ち込み臭がまだ強いのが残念。最近のきくお氏の曲では、結構その点が改善されてきているところもありますが、やはりピアノはよほど打ち込みじゃなきゃできない曲でもない限り生で録音したものが聴きたいですね。
6. 月の妖怪 ★★★
とてもジャジーで、テクニカルなオケが展開する1曲。とても個性的な曲ですが、全体的に緩急に乏しいので少し冗長に聴こえてしまうのが個人的に残念。かといって、ジャズとしてゆったりと聴くには少し騒がしいと感じるので、この評価です。
7. 星くずの掃除婦 ★★★★
歌詞に聴き入る名曲。ジャンルはバラードでいいかな?きくお氏は総合的に特異な才能の光る方で、それは曲においても歌詞、メロディ、コード、アレンジ全てにおいて言えることですが、やはり非凡な方の作るバラードは素晴らしいですね。子供の頃の、初めて読む絵本を捲っていたあの不思議な感覚を思い出します。
8. 70億人の頭の上に風船を ★★★★
とてもストレートでメッセージ性の強い歌。琴楽器のチャカチャカした音が印象的で可愛らしく、多くの音を使ったオーケストレーションで曲の緩急も強く、メロディーも頭に残ります。壮大、とはまた違いますが、広がりのある1曲。
9. はじまりとおわりのうた ★★★☆
出だしで民族調の音楽かと思いきや、バッキバキのトランス。プログレッシブの要素も入ってますね。とてもカッコいいです。ただあまりミクの声が合ってないように感じたのでこの評価。
10. InfiniteDreamer ★★★☆
テクノ成分の強いダンスミュージック。こういう曲も作れるのか、と改めて曲幅の広さに驚かされます。テクニカルなベースのうねりが超イケてますね。ただちょっとボーカルのメロが単調に感じました。
11. 物をぱらぱら壊す ★★★★☆
超怪作。一体どこからこんな凄まじい曲が生まれてきたのか。幻想的で壮大なオーケストラ、そして子供の悪戯のように愉快で不安定で狂気染みていて、寂しさを感じる歌詞。どこをとってもヤバい曲。最初聴いた時は戦慄しました。
12. ボクを忘れた空想紀行 ★★★
ラストトラック。この曲はきくお氏のボカロデビュー作でもあります。4つ打ちのシンプルなポップソング。きくお氏の独特な世界観はこの曲の時点で完成されていると自分は感じますが、アルバム全体で見ると無難であまり印象に残らない楽曲だったのでこの評価。
[総評]
ぶっちゃけると、きくお氏はぼくの中で既に天才の部類に入っています。こんなぶっ飛んでいて、ぼくを含め多くの人を惹きつける独自の世界観を持っている人が凡才なはずがありません。あまり人を天才と呼ぶのは好きではありませんが、彼は紛れもなく非凡なクリエイターだと思います。さて、今回のアルバムについてですが、主にM11などでその非凡さを遺憾無く発揮しているのが見て取れますが、まだどこか商業的というか、一般受けを重視した非個性的で面白みのない要素が残っているように感じられました。彼ならまだ、もっともっと面白いものが作れる、そう思います。というか実際、2nd3rdとアルバムを出すに連れてどんどんストイックで奇個性に素敵になっていくのですが、それはまたの機会に、順を追って紹介したいと思います。
★★★☆
category: VOCALOID
ピノキオピー「遊星まっしらけ」(2013) レビュー
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このブログでは2番目のボカロアルバムですね。
さて、冒頭でネタバレをさせてもらうと、このアルバムはぼくが「今年聴いた中で最も良かったアルバム」です。
なので、年内最後に持ってこさせていただきました。
じっくりとレビューしていきたいと思います。
ピノキオピー氏は、2009年2月頃からニコニコ動画にてVOCALOIDを用いた楽曲を発表し、今現在ではサイトで発表しているオリジナル曲だけでも53曲、アルバムは同人で4枚、メジャーで1枚出しています。過去のアルバムもそのうち紹介したいですね。
それでは以下全曲レビュー&総評。
[全曲レビュー]
1. ぼくも屑だから ★★★★✩
ネットでは未発表のアルバム新曲。合いの手?にsoftalkを使ったり、ヒップホップ・R&B的なリズム、メロディーを主軸とした今までの作風にない実験的な要素を取り入れた楽曲ですが、見事に自身の個性を埋め込んでピノキオピーらしい曲に昇華されています。
2. 胸いっぱいのダメを ★★★★
一転してバンド色全開のロックな1曲。歌詞、メロ、イントロアウトロのリフがとても良いです。欲を言えばサビの盛り上がりがメロ、歌詞に反して少し控えめなのが惜しい。
3. ニナ ★★★★★
キラーチューン。サビのメロが少し惜しいと感じた以外は尽く好みというか、最高です。特に歌詞の視点がとても面白い。ちなみに、このアルバムが発売された後にこの曲のMVが投稿されたのですが、それがまた予想を遥かに超えて素晴らしい出来だったので、幸せです。
4. 週刊少年バイバイ ★★★★
鋭く重い歌詞を早口でまくし立てるアッパーチューン。かなり独特ですがノリ良し、メロ良し、歌詞最高の名曲です。ただこの曲は去年とあるコンピアルバムに書き下ろした同曲のリマスタリングなのですが、正直ぼくはコンピ音源の方が音がはっきりしていて好きですねえ。ただギターソロはこっちの方が良いので一長一短。まあそれはともかく、名曲であることには変わりありません。
5. m/es ★★★★★
初めて聴いた時は、PVと共に衝撃の1曲でした。ピノキオピー氏のポップな一面やアバンギャルドな一面、様々な面を取り込んだ名曲中の名曲だと思います。アルバム版では更に盛り上がりが強くなって、既に何回も聴いていた楽曲なのに体の痺れがしばらく取れませんでした。
6. アッカンベーダ - miku ver - ★★★★✩
エレクトロシューゲイザー的な。こちらもPVが圧巻でした。ネットで発表されている同曲とはボーカルが違い、MAYUから曲名の通り初音ミクに変更されています。片想いという普遍的なテーマをとても深く、人間の深層心理の部分まで表現しているような作品で、素晴らしいです。
7. こどものしくみ ★★★★★
夏に聴きたい1曲。残念ながら今は真冬ですが。とてもキャッチーで清涼感のあるメロディー。オケが喧しく感じるかもしれませんが、歌詞を見ながら聴くときっと印象が変わると思います。ネットにアップされているPVもとてもいい。歌詞の書体にもこだわりを感じます。個人的には、「まるで夕闇の地雷原を走るみたいだな」というフレーズの部分がとても好きです。なんとも文学的な詞。作者本人は文学より漫画の方が好きそうですが。
8. ストレンジアニマル ★★★★✩
過去に紹介したgroup_inouの「RIP」、Commonの「Be(intro)」に並んでシンセの音が好きな曲です。ゆるキャラの歌、ということでピノキオピー氏には珍しく流行を感じる歌詞です。しかしやはり一筋縄にはいかず、ユニークな視点から哀愁のある楽曲に仕上がっています。ラスサビのオノマトペには思わず笑いました。
9. かえるたちのうた ★★★★✩
蕩けるようなメロ、歌声、そして歌詞。サビの美しいメロディーは初聴で心を持って行かれました。曲も歌詞も互いに調和していて、この歌詞にはこのメロディーじゃなきゃダメだ、このメロディーにはこの歌詞じゃなきゃダメだ、と思わせるような造形美を感じます。
10. 遊星まっしらけ ★★★★★
タイトル曲です。非の打ち所がなくカッコいい曲。どうしたらこんなぼく好みの切ない歌詞を書けるんだってぐらい素晴らしいです。PVもなく曲単体で泣けるなんてなかなかない。あとピノキオピー氏は、曲の盛り上がりを作るのがとても上手いと思います。Bメロとサビの間にひと置きするところとか、グッときますねえ。
11. ひとりぼっちのユーエフオー ★★★★★
2013年名曲名PVベスト3に入る素晴らしい楽曲。ただこの曲は所謂「スルメ曲」というか、メロが独特なので初聴ではなかなかノレないところがあると思います。しかしこの曲は何回も聴きたくなる潜在的中毒性みたいなところもあって、最初は「ん?」と思っても結局何回も聴いてどっぷりのめり込んでしまいました。それと、これは初聴でも十分に感じることなのですが、イントロがとても素晴らしい。実際聴いてみればわかると思いますが、出だしの篭った怪しげな音で聴いてる側のワクワク感を引き出し、一気にブレイクして世界観に取り込んでしまう様は圧巻です。是非大音量でどうぞ。
12. 忘れちゃったのどうして ★★★★
ジャンルはバラードかな?ピノキオピー氏が作り出したマスコット的キャラクター、「どうしてちゃん」をイメージした楽曲。他にも過去に「どうしてちゃんのテーマ」というキャラクターソングを制作しており、その一部がこの曲のラストにも使われています。もちろん、そんなバックボーンを知らなくても良い曲、良い歌詞だと思います。
13. ゲームスペクター2 ★★★★✩
最後は明るく切ないピコピコソング。他の曲と比べてもとても表現がストレートでわかりやすいストーリー性のある歌詞ですが、ピノキオピー氏の真骨頂はここにもあります。言葉選びのセンスが良く、情景、心情の描写が絶妙で思わず目頭が熱くなりました。そしてやはりメロディーもとても良いですねえ。どうしてこんなにも歌詞にあったメロディーが作れるのでしょうか。
14. スケベニンゲン - Bonus Track - ★★★★✩
ボーナストラック。切なく感傷的な流れをぶった切って入り込んできたキラーチューン。ジャンルはなんでしょう、とりあえずブレイクコア的なドンガラガッシャンした感じをイメージしてください。この曲もネットにPV付きでアップされているのですが、PV、歌詞共に異様な雰囲気を醸し出しています。初音ミルクちゃん可愛い。まさに脳内麻薬です。感傷に浸っていたリスナーを音の暴力で叩き起こすような斬新なラストでした。
[総評]
えー、各曲の★の数を見ての通り、全曲★×4以上で14曲中5曲が満点の★×5です。ここまで良い評価のアルバムはこの先出るのかどうか怪しいぐらいですね。それほどピノキオピー氏の楽曲がぼくの好みに嵌っていた、ということですが。さて、アルバム全体の評価ですが、1曲1曲に強い個性が見られ、勿論外れ曲なんてあるわけもありませんでした。一方でガチャガチャした騒がしい楽曲が多く、耳が疲れる、なんて人もいるかと思いますが、ぼくはもう1曲1曲に飲み込まれてそれどころじゃなかったので、特に気にならなかったですね。前半騒がしめ、後半ゆったりめで最後に流れをぶった切る1曲と、構成としても面白かったです。世の中を俯瞰しているようなとてつもない包容力を感じさせたり、俗っぽさを伴うフレーズが逆にお洒落というか、一個一個に強いメッセージ性を思わせて楽曲一つ一つが文学の世界に入り込んでいるような感覚を与えてくれます。もうこれは余裕の最高評価ですね。名盤中の名盤。
★★★★★
さて、冒頭でネタバレをさせてもらうと、このアルバムはぼくが「今年聴いた中で最も良かったアルバム」です。
なので、年内最後に持ってこさせていただきました。
じっくりとレビューしていきたいと思います。
ピノキオピー氏は、2009年2月頃からニコニコ動画にてVOCALOIDを用いた楽曲を発表し、今現在ではサイトで発表しているオリジナル曲だけでも53曲、アルバムは同人で4枚、メジャーで1枚出しています。過去のアルバムもそのうち紹介したいですね。
それでは以下全曲レビュー&総評。
[全曲レビュー]
1. ぼくも屑だから ★★★★✩
ネットでは未発表のアルバム新曲。合いの手?にsoftalkを使ったり、ヒップホップ・R&B的なリズム、メロディーを主軸とした今までの作風にない実験的な要素を取り入れた楽曲ですが、見事に自身の個性を埋め込んでピノキオピーらしい曲に昇華されています。
2. 胸いっぱいのダメを ★★★★
一転してバンド色全開のロックな1曲。歌詞、メロ、イントロアウトロのリフがとても良いです。欲を言えばサビの盛り上がりがメロ、歌詞に反して少し控えめなのが惜しい。
3. ニナ ★★★★★
キラーチューン。サビのメロが少し惜しいと感じた以外は尽く好みというか、最高です。特に歌詞の視点がとても面白い。ちなみに、このアルバムが発売された後にこの曲のMVが投稿されたのですが、それがまた予想を遥かに超えて素晴らしい出来だったので、幸せです。
4. 週刊少年バイバイ ★★★★
鋭く重い歌詞を早口でまくし立てるアッパーチューン。かなり独特ですがノリ良し、メロ良し、歌詞最高の名曲です。ただこの曲は去年とあるコンピアルバムに書き下ろした同曲のリマスタリングなのですが、正直ぼくはコンピ音源の方が音がはっきりしていて好きですねえ。ただギターソロはこっちの方が良いので一長一短。まあそれはともかく、名曲であることには変わりありません。
5. m/es ★★★★★
初めて聴いた時は、PVと共に衝撃の1曲でした。ピノキオピー氏のポップな一面やアバンギャルドな一面、様々な面を取り込んだ名曲中の名曲だと思います。アルバム版では更に盛り上がりが強くなって、既に何回も聴いていた楽曲なのに体の痺れがしばらく取れませんでした。
6. アッカンベーダ - miku ver - ★★★★✩
エレクトロシューゲイザー的な。こちらもPVが圧巻でした。ネットで発表されている同曲とはボーカルが違い、MAYUから曲名の通り初音ミクに変更されています。片想いという普遍的なテーマをとても深く、人間の深層心理の部分まで表現しているような作品で、素晴らしいです。
7. こどものしくみ ★★★★★
夏に聴きたい1曲。残念ながら今は真冬ですが。とてもキャッチーで清涼感のあるメロディー。オケが喧しく感じるかもしれませんが、歌詞を見ながら聴くときっと印象が変わると思います。ネットにアップされているPVもとてもいい。歌詞の書体にもこだわりを感じます。個人的には、「まるで夕闇の地雷原を走るみたいだな」というフレーズの部分がとても好きです。なんとも文学的な詞。作者本人は文学より漫画の方が好きそうですが。
8. ストレンジアニマル ★★★★✩
過去に紹介したgroup_inouの「RIP」、Commonの「Be(intro)」に並んでシンセの音が好きな曲です。ゆるキャラの歌、ということでピノキオピー氏には珍しく流行を感じる歌詞です。しかしやはり一筋縄にはいかず、ユニークな視点から哀愁のある楽曲に仕上がっています。ラスサビのオノマトペには思わず笑いました。
9. かえるたちのうた ★★★★✩
蕩けるようなメロ、歌声、そして歌詞。サビの美しいメロディーは初聴で心を持って行かれました。曲も歌詞も互いに調和していて、この歌詞にはこのメロディーじゃなきゃダメだ、このメロディーにはこの歌詞じゃなきゃダメだ、と思わせるような造形美を感じます。
10. 遊星まっしらけ ★★★★★
タイトル曲です。非の打ち所がなくカッコいい曲。どうしたらこんなぼく好みの切ない歌詞を書けるんだってぐらい素晴らしいです。PVもなく曲単体で泣けるなんてなかなかない。あとピノキオピー氏は、曲の盛り上がりを作るのがとても上手いと思います。Bメロとサビの間にひと置きするところとか、グッときますねえ。
11. ひとりぼっちのユーエフオー ★★★★★
2013年名曲名PVベスト3に入る素晴らしい楽曲。ただこの曲は所謂「スルメ曲」というか、メロが独特なので初聴ではなかなかノレないところがあると思います。しかしこの曲は何回も聴きたくなる潜在的中毒性みたいなところもあって、最初は「ん?」と思っても結局何回も聴いてどっぷりのめり込んでしまいました。それと、これは初聴でも十分に感じることなのですが、イントロがとても素晴らしい。実際聴いてみればわかると思いますが、出だしの篭った怪しげな音で聴いてる側のワクワク感を引き出し、一気にブレイクして世界観に取り込んでしまう様は圧巻です。是非大音量でどうぞ。
12. 忘れちゃったのどうして ★★★★
ジャンルはバラードかな?ピノキオピー氏が作り出したマスコット的キャラクター、「どうしてちゃん」をイメージした楽曲。他にも過去に「どうしてちゃんのテーマ」というキャラクターソングを制作しており、その一部がこの曲のラストにも使われています。もちろん、そんなバックボーンを知らなくても良い曲、良い歌詞だと思います。
13. ゲームスペクター2 ★★★★✩
最後は明るく切ないピコピコソング。他の曲と比べてもとても表現がストレートでわかりやすいストーリー性のある歌詞ですが、ピノキオピー氏の真骨頂はここにもあります。言葉選びのセンスが良く、情景、心情の描写が絶妙で思わず目頭が熱くなりました。そしてやはりメロディーもとても良いですねえ。どうしてこんなにも歌詞にあったメロディーが作れるのでしょうか。
14. スケベニンゲン - Bonus Track - ★★★★✩
ボーナストラック。切なく感傷的な流れをぶった切って入り込んできたキラーチューン。ジャンルはなんでしょう、とりあえずブレイクコア的なドンガラガッシャンした感じをイメージしてください。この曲もネットにPV付きでアップされているのですが、PV、歌詞共に異様な雰囲気を醸し出しています。初音ミルクちゃん可愛い。まさに脳内麻薬です。感傷に浸っていたリスナーを音の暴力で叩き起こすような斬新なラストでした。
[総評]
えー、各曲の★の数を見ての通り、全曲★×4以上で14曲中5曲が満点の★×5です。ここまで良い評価のアルバムはこの先出るのかどうか怪しいぐらいですね。それほどピノキオピー氏の楽曲がぼくの好みに嵌っていた、ということですが。さて、アルバム全体の評価ですが、1曲1曲に強い個性が見られ、勿論外れ曲なんてあるわけもありませんでした。一方でガチャガチャした騒がしい楽曲が多く、耳が疲れる、なんて人もいるかと思いますが、ぼくはもう1曲1曲に飲み込まれてそれどころじゃなかったので、特に気にならなかったですね。前半騒がしめ、後半ゆったりめで最後に流れをぶった切る1曲と、構成としても面白かったです。世の中を俯瞰しているようなとてつもない包容力を感じさせたり、俗っぽさを伴うフレーズが逆にお洒落というか、一個一個に強いメッセージ性を思わせて楽曲一つ一つが文学の世界に入り込んでいるような感覚を与えてくれます。もうこれは余裕の最高評価ですね。名盤中の名盤。
★★★★★
category: VOCALOID